酔夢

松原ぼたん 


 「では、お望みどおり殺して差し上げましょう」

 と、目の前に立つゼロスが言った。

「え?」

 彼女にはなんのことだか分からなかった。

 それを問う間もなく、彼女の体に黒い錐が突き刺さった。

 ───がばっ。

 彼女は起き上がった。

「夢・・・・」

 そうつぶやいて辺りを見回した刹那──。

 ゼロスの膝枕だったことに気づいた。。

 彼女は再び眠ることにした。

「・・・・様」

 自分を呼んでいるらしき声に彼女は眠りから引き戻された。

 目を開ける。

 今度もゼロスがいた。

 彼女は王座の様な椅子に腰掛け、ゆったりとした衣装をまとっている。

 ゼロスはその足元にひざまづいていた。

「赤眼の魔王様」

「へ?」

 一瞬、何のことだか分からなかったが、どうやら彼女の事をそう呼んでいるらしい。

 と、不意に目の前が切り替わった。もうそのことには驚く気にはなれない。

 今度目の前にいたのはヴァルガーヴだった。

「・・・・帰んな、お嬢さん」

「・・・・だからぁ」

 一体、自分は誰なの?

「・・・・何なの、一体!?」

 

「あのー、獣王様。なにをやってらっしゃるんですか?」

 ゼロスがおずおずと上司にたずねた。

「何でも『混沌の館』とやらが10000HITになったらしいから、そのお祝いに管理者に夢の中でだけど願いをかなえて上げているのよ」

 あっさりとゼラスは『願いをかなえる』などどいう魔族らしからぬ言葉を使う。

「・・・・なんか、時々そこはかとなく負の感情を感じるんですけど・・・・」

「あら」

 ゼラスは微笑した。

「そこまでは知ったことじゃないわ」

 

 彼女はいつぞやと同じように起き上がった。

 見慣れた場所であることを確かめ、今度こそさっきのが夢だったと確信する。

「・・・・ネタになる」

 ほっとするより前に彼女はつぶやいた。

 めでたし、めでたし。


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