松原ぼたん 


「何を考えてるの?」

 そう言われ、ゼロスは顔を上げた。

 ゼラスが彼の顔をのぞき込むように見つめていた。

「別に何も考えてませんが・・・・」

「嘘吐きね」

 くすっと笑いゼラスは顔を少し離す。

「そりゃ人形じゃないのだから何も考えるなとは言わないけど」

 代わりとでもいうように手を伸ばしゼロスの頬に触れる。

「私といるときぐらいは私の事を考えてくれてもいいでしょう?」

 悪戯っぽく言いながらゼロスの輪郭をなぞるように手を下ろした。

「僕はいつでもあなた様の事を考えていますよ」

「嘘吐きね」

 ゼラスが同じ言葉を繰り返す。先ほどより真剣なニュアンスで。

 再び顔を近づけるとごく自然に唇を重ねた。

「・・・・今、誰の事を考えて?」

 唇を離した後、ゼロスの耳元でそう尋ねる。

「・・・・驚きました」

 答えにならない答えを返したゼロスの耳に吐息が聞こえた。

「・・・・まぁ、いいわ」

 何事もなかったかのようにゼラスは離れた。

「いずれ分かるでしょうから」

 それは再び運命が動き出す前のほんの少し凪いだ時間の出来事――。


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