松原ぼたん
「ねぇ、ケイン。キャナルこのカタログに載ってる・・・・そう、これがほしいの」
「買えるわけねぇだろ、こんな高いの」
「買ってくれないと生命維持装置止めちゃいますよぉ」
「また、それかよ。分かったよ。買えばいいんだろう、買えば?」
「あ、ケイン、今これ切れてるのよ、一緒にかっといて」
「・・・・これ、この間も買わなかったか?」
「しょうがないでしょう、宇宙一の料理には必要なんだから」
「分かった分かった。好きにしろ」
「ねぇ、ケイン」
「そうそうケイン」
「これなんだけど」
「こないだのあれ作るのに」
「どうしてもほしくてぇ」
「材料が足りないのよ」
「だから」
「そーゆー訳だから」
ケインは思わず耳を押さえた。
「買ってー」
ものの見事にミリィとキャナルの声がハモった。
「うるさいっ」
ケインがどなる。
「お前ら、ちょっとは財政考えていいやがれ」
思わずキョトンとした表情を浮かべるミリィ。
「んな、おーげさな。いくら何でも料理の材料ひとつで財政難になるわけないでしょう
?」
「ほー」
ケインがジト目でミリィを見る。
「この間作ったとき確かキッチンを全壊してすざまじく高くついたよな、あの料理」
「それは、その・・・・あはははは」
頬に一筋の汗を浮かべつつ、笑ってごまかそうとするミリィ。
「あたしはそんなことしませんからぁ」
意味不明な事を言うキャナル。彼女が自ら宇宙船を壊すはずがある訳がない。
「そうか、壊れてないのならわざわざ新しくする必要はないよな」
あっさりとキャナルを交わすケイン。
「買ってくれないなら生命維持装置を・・・・」
いつもの台詞を口に仕掛けるキャナル。
しかしケインはどこからか宇宙服を取り出すと無言で着込み始めた。
「・・・・やるわね」
つぶやくミリィ。
「・・・・分かりましたから。止めたりしませんから宇宙服着るのはやめてください」
その言葉に従いとりあえずケインは手を止めた。
「けどケイン、あたしにはどうしても必要なものなの」
「安心しろ、どこをどう見たって必要ねぇから」
キャナルの泣き落としも今日のケインには効かなかった。
「必要なものならいざ知らず、この状況で要らないものを買うんじゃない」
「なら、ケインはどうしても必要なもの以外は買わないのね」
「おう」
そのの言葉に、ミリィとキャナルが視線を交わし合う。
「・・・・ごめんね、ケイン。たいして必要もないものをほしがったあたしがわるかっ
たわ」
神妙な表情でミリィが言う。
「え? ああ、分かってくれれば・・・・」
「そうね、あたしも悪かったわ。ごめんなさいマイマスター」
ギャナルも神妙になる。
「お、おう!?」
あまりの変わりように薄ら寒いものを感じるケイン。
「そうそうケイン、貴方にメールが来てたわ」
話を変えるようにキャナル。
「そうか、見せてくれ」
ケインの言葉にしたがって画面に映し出されたものは・・・・。
「ををを、新しいマントの通販カタログ。ブランドものじゃねえか」
なかば反射的に注文しようとするケインをミリィが止める。
「ケイン、どうしても必要なもの以外は買わないんでしょう?」
「必要なものだろうが」
説得力のかけらもないことを言ったケインにキャナルが言う。
「しかし、マントがこのところ破損したりはしていないようですが・・・・」
「そういう問題じゃねぇだろ、これはポリシーの問題だ」
「なら」
ミリィが言う。
「あたしが料理を宇宙一おいしくしようとしてるのもポリシーよ」
「ついでに言うならあたしだってそうです」
キャナルも便乗する。
「・・・・分かったよ。何でも買ってやるよ。それでいいんだろ」
マントを前にケインの理性はどこかへ行っていた。
「やったー」
ミリィが小躍りする。
「だから俺にもマント・・・・」
「あら」
いまさら気づいた様にキャナルが言う。
「このカタログ、有効期限が切れてるみたいですねー」
「なにぃ!?」
確かにそのとおりだった。
「今時、マントの通販なんてやってるはずないわよね」
ミリィがつぶやく。
「・・・・お前ら、だましたな」
「そっちが勝手に勘違いしただけじゃない」
「そーです。人のせいにしちゃ行けませんよ、ケイン」
そうは言うが間違いなくキャナルの仕業だろう。
「とにかくケイン、さっき言ったんだから・・・・」
「さっき?」
往生際悪く、ケインはとぼけようとした。
『・・・・分かったよ。何でも買ってやるよ。それでいいんだろ』
キャナルが記録を再生する。
「・・・・勝手にしろ」
「やったぁー」
その日、ソードブレーカは今まで最大の危機を迎えた。