松原ぼたん
「お誕生日おめでとう御座います、獣王様」
「有り難う」
ゼロスの言葉にゼラスがにっこりと笑う。
「・・・・しかし魔族が誕生パーティーを開くか、フツー」
「いいじゃない、楽しいんだから」
ガーヴの言葉をゼラスは軽くいなした。
「生まれてからどれくらいの時間無駄に過ごしたかを数えるのが楽しいわけ?」
フェブリゾがぼそっとつぶやく。
「失礼でしょ、フェブリゾ」
それをダルフィンが聞きつけた。
「誕生日は覚えてても年齢は忘れるのがマナーってもんでしょ? 一番若作りしといてずるいわよ」
しかし言葉とは裏腹に多少いつもより若い姿をとっているところをみると、ゼラスを意識しているとしか思えない。
実のところ、腹心は年齢も誕生日もほぼ同じなのだが。
「そうよ」
しかし、ゼラスは確かにある意味大人だった。
「レディに年を聞いちゃいけないわ」
ダルフィンの思惑を分かっていながら同調する。
ちなみにグラウシェラーは1人黙々と酒を飲んでいた。
別に酒好きな訳ではない。無口なのだ。
「遅れたようだな」
その時、そう声がしてシャブラニグドゥが姿を現した。
みんなが一斉に跪くかと思えたが・・・・。
「パパ(はぁと)」
ゼラスが言った言葉にシャブラニグドゥが顔をひきつらせる。
ほかの腹心も同様だった。
ただひとり、当のゼラスだけがおもしろがっていた。
「・・・・獣王様、赤眼の魔王をそう呼ぶのはお止めになった方が・・・・」
ゼロスがおずおずという。
「あら」
ゼラスがくすりと笑う。
「やきもち?」
すっと手を伸ばしてゼロスの顎を持ち上げる。
「なんなら『ママ』って呼んでくれてもいいのよ? ボーヤ」
ゼラスがどういう意図でそういったかはとにかく、あたりの空気がカタートよりも冷たくなったのは確かだった。
「あのころはよかったわねー」
「どうかなさいましたか?」
ゼラスの言葉を聞きつけて、ゼロスが尋ねた。
「昔、誕生パーティーをやったでしょう?」
「・・・・そうでしたね」
あれはゼロスにとってまさしく悪夢だった。
ゼラス以外は全員そうだったらしく、次からは招待してもこなかった。
未だになぜゼラスがあんなものにこだわるのかが分からない。
おそらく単に面白いからだけなんだろうが、確かめる気になれなかった。
「あれはまだ赤の竜神が生きていた頃でしたね。やはり誕生パーティーなどというものは魔族には辛いんですよ」
「だったら何でガーヴまでこなかったのよ」
あきれた事にゼラスは裏切ったガーヴにまで毎年招待状を送っていた。
要するにパーティーさえ出来ればそれでいいらしい。
「罠だと思ったんじゃないでしょうか」
無論、それが理由じゃないのはゼロスには分かっていたが。
「ガーヴとフェブリゾはもういないし、ダルフィンは『誰が何と言おうとぜーったい行きませんからねっ!!』ってヒステリックにわめくし、グラウシェラーはあの調子だし・・・・つまらないわ」
ゼラスがぼやく。
「まあまあ、僕でよければ何にでもお付き合いしますから・・・・」
ゼロスとしてはそういうしかない。
言わなくとも付き合わされるのは目に見えているが。
「本当ね!?」
ゼラスはゼロスに詰め寄った。
「は、はい」
その声を聞いてゼラスはうれしそうに笑った。
ゼロスはそれを見て、心からの言葉を口にした。
「お誕生日おめでとう御座います」
何だ言っても、彼にとってはかけがえのない上司様なのだ。