松原ぼたん
「なあフィリア。女にプレゼントするとしたら何をやればいいんだ」
突然発せられたヴァルの質問にフィリアは危うく香茶を吹き出しかけた。
「な、何かあったの?」
「何かって訳じゃないんだけどさ」
所詮は子どもの言った事となんとか立ち直ってフィリアが言葉を紡ぐ。
「自分がもらってうれしいものを人にあげるといいって言うけど……相手は女の子何でしょ? カエルはやめた方がいいと思うわ、個人的意見だけど」
最近ヴァルは雨が降る度に出てくるカエルがことのほかお気に入りなのだ。
「フィリアは嫌いなのか?」
「カエルよりは骨董か鈍器の方が好きだわね。あ、だからってそんなものあげようとか考えない方がいいわよ」
子どもの小遣いでは無理だし、多少趣味が変わっている自覚はあるフィリアであった。
「ふうん」
納得したのかしないのか。それっきりヴァルはお菓子の方に取りかかった。
その日は梅雨だというのに珍しく晴れていた。
「フィリア」
朝からどこかへ出かけていたヴァルが元気よくフィリアを呼んだ。
「どうしたのヴァル」
尋ねるフィリアに答えずヴァルが手を引っ張る。
「早く早く」
「ちょっと待って、留守番……ジラス、グラボスー」
呼んでみるが返事がない。
仕方ないのでフィリアは鍵だけかけて付いていく。
ヴァルはどんどんと街はずれに走っていく。そこには野原があるはずだ。
「まあ」
フィリアは目を見張った。
野原の真ん中に見覚えのあるテーブルとイスが置いてあった。物置にしまっていたものだ。
テーブルの上にはご丁寧にクロスがかかり、さらにその上にお茶の支度ができていた。
その周りにジラスとグラボスがいるる
「お誕生日おめでとうフィリア」
手を離し、そこまで走っていった言ったヴァルが振り返りざまにいう。
「えっ!?」
さすがに忘れてはいなかったが、意表をつかれたのは事実だ。
「フィリア前にもらってうれしいものをあげるといいって言ってたよな。俺そのときちょうど外で遊びたかったんだ。だからピクニックをプレゼントしようって」
冷静に考えると穴だらけの計画だった。このテーブルやイスは結局フィリアが片づけるのだろうし、それ以前にもし雨が降ったらどうする気なんだろう。
そう思ってもフィリアの顔はほころんだ。
このところヴァルが何かしているのは知っていたが、こんな事とは思わなかった。
「お誕生日おめでとう姉さん」
ヴァルの協力者が微笑う。
「有り難う」
テーブルの中央にあるのはいびつなクッキー。おそらくヴァルが焼いたのだろう。
けれどとびきりおいしいに違いない。