松原ぼたん
『いい子にしていないとサンタさんが来てくれないわよ』
幼い俺にそう言ったのは誰だっただろう? 少なくともリナ=インバースではないことは確かだが。
もしかしたら本か何かで読んだのかもしれないし、ジラスが言ったのかもしれない。もしかしたら時々手伝いという名目でうちにやってきてやたらと俺に構いたがった化粧の濃いおばさんだったかもしれない。・・・・そういえば幼児誘拐で捕まったとか聞いたが。
とにかくサンタクロースというクリスマスにプレゼントをくれるらしい存在は知っていたが、そのサンタが『いい子』にしかプレゼントをくれないという話は初めて聞いた。
その時思った。サンタの言ういい子とは何だろう? と。
それが大人にとっての『都合のいい子』をさしているのならサンタクロースは飴と鞭のいわゆる飴の部分であり、言うことを聞かす為の道具に過ぎないと。
子どもは一生懸命に生きている。その行動の結果が大人が眉をひそめるような事だったとしても、それだけでいい子じゃないと言い切れるのだろうか・・・・そんなことをもっと子どもらしい理屈で考えたわけだ。
とにかく俺はその時実在しないことを知ってしまった。今だって子どもといわれてるんだ。昔はもっと子どもだったはずだからある意味夢も希望もない。
けれどクリスマスは好きだった。なぜならフィリアが楽しそうに笑うから。神殿にいた頃はこんな行事はなかったのよと本当に楽しそうに。
そう言えばフィリアはいい子にしないとサンタが来ないとは言わなかった。確かにあれはフィリアじゃない。
サンタを知らなかったという可能性はない。なぜなら毎年枕元にプレゼントがおいてあるから。ちょっとずれた中身の選択は間違いなくフィリアだろう。
「なあフィリア」
「なあに?」
「サンタクロースがいい子にしかプレゼントくれないって話知ってるか?」
「あら、ヴァルは自分が悪い子だと思うの?」
逆に尋ね返される。・・・・俺がまだサンタクロースを信じていると思ってるのだろうか?
「さあ? サンタにとっての『いい子』がどんなヤツなのか知らないからな」
・・・・フィリアにとっての『いい子』はどんなヤツなんだろう?
「大丈夫」
フィリアが微笑む。
「ヴァルはいい子よ」
本気で言ってる様にしか見えない。・・・・全く、こんなお人好しで詐欺に引っかかったりしないのか?
「有難う」
それでもちょっと嬉しかったので礼を言う。フィリアがますます笑顔になった。
今日は俺にとって世間一般が浮かれてるほどめでたいとは思わない。
けれどフィリアが笑うなら。それは何よりも代え難い価値だから。
いくらでも祝ってやるよ。
サンタクロースが死んだ日を。