暑中お見舞い・・・(涙)

人見蕗子(露蕗)


 それは、ある夏の朝。

 宿屋の5つの部屋から同時に聞こえた声。

『な・・・っ!?』

 それぞれの手に握られたのは、ハガキ。

 リナにあてられたハガキには、でっかいなめくじの絵。それに跨るのは、ご存じ故郷の姉ちゃん。

 アメリアのハガキには、高笑う巨乳美女と土の中から這い出した従兄弟、アルフレッド。

 ガウリイのハガキには、光の剣を握りしめ「あたしが愛してるのはこの剣だけよ。あんたなんて用なし♪」とのたまうリナ=インバース。

 ゼルガディスのハガキには、どアップの赤法師レゾ。

 フィリアのハガキには、古代竜の死骸の中で泣きじゃくる幼いヴァル(ガーヴ)。

 そして全てのハガキに共通するのは上に書かれた一言、「暑中お見舞い申し上げます」。

 

 

「―――なんなのよっこれはああ!?」

 みんな―――6人そろっての朝ご飯。5人の手にはハガキが握られているが(リナのは怒りのあまり、フィリアのはヴァルに見せたくない一心でビリビリに破けている)、なぜかヴァルだけは持っていない。

「お前ら・・・何もらったんだ・・・?」

「っつーかなんであんたはもらってないのよ!!この露出狂!!」

リナの台詞は文字にするとこういうことだが、口一杯に食べ物を詰めこんでいるため実際は「ふーかあんであんらはおあってあんのよ!!ふぉのろふゅふゅひょお!!」にしか聞こえない。ちなみに「露出狂」はただの八つ当たり。

「リナさん、それは秘密です♪」

「―――ひゃっふぁりはんらのしわられ、ゼロフ」(やっぱりあんたの仕業ね、ゼロス)

「やだなあ、半裸なのは僕じゃなくてヴァルガーヴさんでしょ」

「『半裸』じゃなくて『あんた』よ、ゼロス!!」

 ようやく口の中のものを飲み込み、ちゃんとした言葉になる。

「こ・・・これはあなたの仕業なんですか、この生ゴミ魔族!!どういうつもり!?」

 がたん、と椅子をひっくりがえしフィリアが立ち上がる。

「ひどいですゼロスさん、こんなんじゃいつまでたっても魔族のままですよ!?」

「―――お前はつくづく俺と馬が合わんらしいな」

「コレ、ゼロスが書いたのか?お前絵上手かったんだなー」

 怒りの四つ角を額に張り付けた面々に詰め寄られても、ゼロスは笑顔のままである。

「やだなー、みなさん。そんなに怒ったらせっかく僕が送った暑中お見舞いも効果を発揮しませんよ」

「どういう意味よ。あたしらの“負”の感情をおなか一杯いただこうって寸法じゃないの?」

「とんでもない。僕はみなさんを涼しくしてあげようと思って。ぞっとしたでしょ?それ。いやー一晩かかっちゃいましたよ。残念なのは昨日の夜がかなりの熱帯夜だったんですが、ハガキを皆さんの部屋に届けたのが今朝方だった、ってことですか」

 アメリア、ゼルガディスが無言でハガキを破る。ガウリイあてのハガキもリナが奪い取り、あっというまに5枚のハガキはただの紙屑となる。

「ああっ・・・ひどい・・・!!」

「ひどいのはあなたでしょうが!!ひとの心の傷をえぐるのもいいかげんにしなさい!!」

「―――なあ、俺にはねえのか?」

「ヴァル!!」

 薄く笑みを浮かべたヴァルガーヴがゼロスに向けて手を伸ばす。

「どうした?俺は不幸すぎて描くことが絞れなかったか?」

「いえいえ、ちゃんと描きましたよ、スペシャルフルコースなやつを。ただヴァルガーヴさん、あなた今朝方部屋にいなかったでしょう?」

 ぎくっっ。

 ヴァルガーヴの笑みとフィリアの困惑顔がこわばる。

「そ・・・それはその・・・」

「その代わり、といっちゃなんですが隣のフィリアさんの部屋はなーんか騒がしかったですね。扉に耳を当ててみると中からはケモノのような荒い息・・・」

「朝っぱらから血圧の上がるよーな話題を口にするな!!わかった!!わかったからやめろ!!」

「おやおやみなさんそんなに赤い顔をして、そんなときこそ暑中お見舞いの出番です!!さあどうぞ、ヴァルガーヴさん」

「おう・・・!?」

 ぶうっっ。

 ゼロスからハガキを受け取った瞬間、ヴァルガーヴは鼻血を吹いてその場にうずくまった。

「ちょ・・・ヴァル!?大丈夫ですか!?」

「おかしいですね・・・涼しくなるはずなんですけど・・・」

「ゼロス!!みせなさいそれ!!」

「だ・・・駄目だフィリア・・・」

 鼻血の海からフィリアはそれを拾い上げ・・・。彼女の顔は一瞬で青ざめ、床にひっくり返る。

「フィリア!!何が描いてあるの!?」

「う・・・リナさん・・・」

 震える手でフィリアはハガキをリナへ手渡す。

セーラー服着用によって多数の脳死者を出したしめ縄マユゲおやぢ、魔竜王ガーヴ。

 そこに描かれていたものは、よりにもよって彼が『乙女の祈り』の衣装(ピンク)を身につけ、踊っている図だった。ああ盛り上がった乳が眩しい・・・。

リナ達4人も真っ青になりテーブルに突っ伏す。

「これが正しい反応なんですよ、ヴァルガーヴさん」

「うるへいっ!!」

 鼻を押さえてわめくヴァルガーヴ。その背中に、急に悪寒が走る。

「―――ヴァル・・・不潔・・・」

 フィリアの目は語っていた。私よりガーヴの方が大切なのね、と。

 私を弄んだのね、とも。

                  おわり♪


こんなんでも、私はヴァルを愛してます。

 しかもばりばりのヴァルフィリ派です。

 しかもしかも、ホ○は苦手です。

 いちばん信じられないのはどれでしょう。(おいおい)