はっぴーばーすでー★(メルヘンばあぢょん)

れい


愛の意味なんて

 そう簡単にはわからないけど

 大事なのは大きな事より

 些細な事の積み重ね

 俺は沢山の祈りを捧げた

 一日たりとも、

 あんたを想わずに過ごす日はない

 何時でも何処でも心の支え

 後押ししてくれた、導いてくれた

 俺が成功する様にと

 

 夜明け前の空を、青年と呼ぶにはほんの少し幼い少年と、少女と呼ぶにはほんの少し老…熟年した女性が飛んでいました。

 

「いやぁ、たまには空の旅も良いもんだな」

「何が『空の旅も良いもんだな』なんですか!」

 少年の言葉に、少年の母親でしょうか、彼の腕に抱えられている女性は涙声で言い、いえ、叫びました。

 女性の顔はまるで林檎の様に赤く、泣きそうな様子です。

「何時から貴方はこんな誘拐みたいなマネをする様になったんですか!?ジラスさんもグラボスさんも置いて…それに!もうすぐお祈りの時間じゃないですか!一体何をする気なんですか、貴方は!」

 どうやら、女性の方が一方的に少年を責めている様です。

「…ったく、一回位はサボりたくなるっつーに、ってか、母さん巫女辞めたって言ってたじゃねーか」

「確かにそうですけど、お祈りは今の貴方には必要なんです!お祈りとは人を信じる事につながるのですよ」

 …本当にそうなのですか、お母さん…かなり無理な繋げ方してません?

 ちょっと何か違う気がしないでもない女性の言葉に、少年は少しうめきました。

 その顔には、どーしよーもないな、とはっきりと書かれています。

 鈍感な女性はそれに気付いてはいませんけどね。

 

 神様には感謝してるよ

 俺の為になら何でもしてくれる

 素晴らしい家族を与えてくれた事

 ずっと長いこと大事に育てられて

 今、あんたが微笑むのを見るのが

 何よりも嬉しい

 これまでしてくれた事に、有難う

 何時かお返しが出来る事を

 あんたにとって最高の

 息子でいられる事を願ってる

 

「ま、悪いけど今だけはどうしても譲れないんでね。まあもう少しだから、諦めてくれ…それにしても、母さん重いな…」

「何ですって!?これでも毎日健康には気をつけているんですよ!仕方無いじゃあないですか、私は竜なんですから、そりゃあ普通の人間より重いのは確…」

 体重が重いのと健康に気をつけているのはあまり関係無い様な…いえ、兎に角、少年の女性にとって禁句の呟きに、女性はとうとうキレてしまいました。しかし、いつも太腿のガーターベルトに仕込んであるモーニングスターは不幸なことにありません。女性はお風呂に入る時と寝るときだけモーニングスターをとってしまうのです。

そして少年が女性を家から連れ出したのは、ちょうど女性がぐっすりと熟睡していた時なのですから。

「ああ、ごめんごめん、俺が悪かった母さん。もうすぐ着くから、ホントに」

「…………」

 女性はすっかりふくれていました。こう言う所だけ見ると、まるで小さな少女の様です。

 眼下に広がる緑一色の森林と、まだ薄暗い、でもとても綺麗な空、そして沢山の小さな鳥達の側を通りすぎて、少年はやっとある丘へと降り立ちました。

 ちょうど、向うにある山から、朝日が差し込もうと言う時でした。

 ゆっくりと、朝日が差し込んで来ます。

「きれい…」

 女性は思わず、そう呟きました。

 少年は何処からか女性のお気に入りのペアのティーカップとポット、それからお湯とお茶っ葉を取り出しました。…一体何処から取り出したのでしょうか?…

「ここから見える朝日は最高なんだ」

 そう言いながら少年は片方のティーカップを女性に渡し、それに紅茶を注ぎました。

 

 愛し方を教えてくれた

 思いやりを教えてくれた

 何時でも側にいると言ってくれた

 全ての時間に有難う

 あんたを母に持てて誇りに思ってる

 

「はっぴーばーすでー、母さん」

 少年の言葉に、女性は真っ赤になりましたとさ。

 

 母さんあんたは何時だって、何時だって、

 母さんあんたは何時だって

 完璧なファンでいてくれた

 

 母さん、大好きだよ

 

                        

 おしまい。