《第1幕》
ーナレーションー
昔々ある国に、一人のかわいらしい女の子が住んでおりました。名前をヴァルデレラと言います。
ヴァルデレラの家はとても裕福で親子3人とても仲良く暮らしておりました。
が、突然ヴァルデレラのお母さんが重い病にかかってしまい亡くなってしまいました。
いつまでも嘆き悲しんでいるヴァルデレラを哀れに思ったお父さんはヴァルデレラに新しい継母リナと2人のお姉さん、アメリアとゼロスを連れて来てくれました。
しばらくは仲良く暮らしていましたが、お父さんが亡くなると手のひらを返したようにお母さん達はヴァルデレラに冷たく当たるようになりました。
「ヴァルデレラっっ!ここを掃除しておくように言ったでしょ!!!」
「あ・・・そこはさっき・・・」
「ヴァルデレラ!言い訳するなんて正義じゃありません!!!」
「すみませんーーーーっっ」
「ちょっとヴァルデレラさん。私のドレスちゃんとクリーニングに出しといてって言いましたよねぇ?」
「はっはいっっ」
「ああーーーーーーっっお腹すいたっっ!!!!早くご飯作ってよ!!!!!」
「ただいまーーっっ」
このように毎日々こき使われているのです。
「っっったく・・・なんでこんなことしなくちゃなんねーんだよ・・・」
「なんか言った?」
「いえ・・・・(汗)」
ああ・・・かわいそうなヴァルデレラ(笑)
「どうしてこんなことになっちゃったのかしら・・・お父様、お母様・・・うう・・・」(棒読み)
ヴァルデレラが嘆いていると林の向こうから獣がやってきました。
「どうした?親分・・・じゃない・・・ヴァルデレラ?」
「狐のジラスさん・・・しくしく」
ヴァルデレラは思わず泣き出してしまいました。
「毎日々掃除に洗濯・・・・食事の準備・・・お母様やお姉様のお世話でくたくたなの・・・」
ジラス相手に愚痴りだしました。
「服を脱げば脱ぎっぱなしだしっ・・・突然靴のままでテーブルに昇って大声張り上げるわ、いきなり背後に現れて人のこと脅かしやがるわでっっ!」
話していくうちに興奮してきました・・・。
「とくに食事!あいつら人間じゃないっっ!!!一人頭20人前はぺろりとたいらげやがる!!!
食い方はきたねーーしっっそのくせ味にうるさい!!
まったく作る方の身にもなれってんだ!!!
ゼロスは人が苦しんでるの見て喜んでるし!!!!!」
別の人格が乗り移ってきてしまったようです・・・・・・・・。
「ヴァルデレラ・・・・?」
いつもと様子が違うヴァルデレラにおののき1メートルばかりあとじさるジラス・・・。
「はっ・・・・・・おほほ・・・・いやだわジラスさんたら♪」
あわてていつものように笑みを浮かべるが、その額には青筋が立っているのをジラスは見逃さなかった・・・。
そんなある日。
お城から使者が参りました。
それによると、お城で舞踏会が模様されるというのです。
それを聞いた3人は大喜びでさっそく準備に取り掛かりました。
「舞踏会って言ったらごちそうよね!!思う存分食べられるわ〜〜♪」
いつも思う存分食べてるじゃねーかとは思っても口には出さないヴァルデレラ・・・。
「人がたくさん集まるところで思う存分愛と正義について述べられるなんてなんてすばらしいんでしょう!!」
だれもあんたの講釈なんて聞きたくないってとは思っても(以下同文)
「そういえば今回の舞踏会、王子様のお嫁さんを探す目的でもあるみたいですよ。
さっそく新しいドレスを作らなくっちゃ♪」
お前の女装なんか見たくもねえとは思っても(以下同文)
「お前は留守番よ。まぁ、行きたくても行けないわよねぇ・・・ドレスも宝石もなんにも持ってないんですもの」
意地悪そうにそう告げる継母リナ。
「あらお母様、私のお古のドレスでも着ていけばいいじゃありませんかぁ」
ゼロスは言います。
「そうですよ。一緒に正義について語ってもらいましょう!」
アメリアはなにか勘違いしているようです。
「だめよ!!」
継母リナはきっぱりと言います。
「だって夜食の準備をしておいてもらわなきゃならないんだもの!!!!!!!」
・・・・・・他のことは多少譲っても、食べ物のことだけはけして譲らない母にもうなにも言えない3人でした・・・。
《第2幕》
そうしてるうちに舞踏会の日がやって来ました。
「行ってくるからね。ちゃんと留守番してるのよ!!」
「・・・・はい・・・・」
そして3人は意気揚々とお城へ向かったのでした・・・。
一人取り残され悲しみにふけるヴァルデレラ。
「あーーーあいつらがいないと家が静かでいいなぁ」
・・・・・きっと彼女も舞踏会へ行きたいのでしょう。ああ・・・かわいそうなヴァルデレラ・・・。
「部屋も散らからないし。このまま帰ってこなけりゃいいのに」
・・・・・・かわいそうな・・・・・・・・(泣)
「・・・・・・(ため息)ああ。私も舞踏会へいきたかったわあ。うるうる」(棒読み)
額に青筋立て震えるほど悲しみにふけっているところへ、突然声をかけられました。
「悲しむことはありませんわ♪」
声のした方を見ると、そこには一人のおばあさんがたたずんでいました。
「私は魔法使いのお姉さんよ」
なぜか顔を引き攣らせながらこう言いました。
「魔法使いのおばあさん・・・・?」
ヴァルデレラは不思議そうな顔をして見つめました。
「お姉さんです!!!」
「・・・・で?その魔法使いがなんのようなんですか?」
ちょっとトゲのある言い方でしたが、魔法使いのおば・・・・お姉さんはにこやかにこう言いました。
「ヴァルデレラ、舞踏会に行きたいのでしょう?」
「へ?いや・・・べつに・・・」
「いきたいわよね?」
ドスのきいた声で迫られ、悲しみにふけっていたヴァルデレラは即答しました。
「う・・・・・行きたいです・・・・・・・・」
「そう♪よかったわ。私が魔法で連れていってあげましょう」
魔法使いのお姉さんは楽しそうに(なぜか)しっぽをぴくぴく動かしながら呪文を唱えました。
すると、たくさんのドレスや宝石が現れました。
「さあ、どれにしましょうか?これは?チャイナ服よ♪」
「え?・・・あの・・・」
「ここまでスリット入っててとってもセクシー(はあと)」
「いや・・・ちょっと・・・」
「あーーん。こっちもいいわねーー♪ピンクのふりふり〜〜(はあと)」
「・・・・おい・・・・・」
「うふふ♪とってもよく似合うわよ〜〜〜♪♪♪♪」
「いーーかげんにしろおおおおおっっ!!!!俺は着せ替え人形じゃないいいいいっっ!!!!!」
こんなに豪華なドレスや宝石を見るのは初めてなヴァルデレラは楽しくてしかたがないようです。
「こっちのシースルーも捨てがたいわ〜〜♪♪♪♪」
「人に話しを聞けええええええええっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!」
ヴァルデレラはうれしさのあまり、大きな声を上げて喜びを表現します。
「うれしくなーーーーーーーーいっっっっ!!!!いーーーかげんにしろっっ!!ナレーション!!!!!
さっきから思ってる事とぜんぜん違う事言ってるじゃねーーか!!!!!!なんで俺が・・・ぐはぁっっ!」
どげしぃっっ!!という音がしたと思うと、突然ヴァルデレラは倒れ込んでしまいました。
魔法使いのお姉さんを見ると、手にモーニングスターが握られています・・・。
「あらあら♪毎日お仕事で疲れてるのね♪♪このまま出発まで寝かせてあげましょう♪♪
次はなに着せようかしら♪♪♪」
眠っているヴァルデレラの為に、ドレス選びをしてあげる魔法使いのお姉さんでした。
結局ヴァルデレラは24着ものドレスを試着させられたようです。
「やっぱりこれが一番よく似合うわ♪♪」
魔法使いのお姉さんはそう言って肩と背中が大きく開いて、腰のラインを強調したドレスを選びました。
「次は馬車とその他もろもろね♪」
そそくさとかぼちゃやねずみなどを取り出し呪文を唱えると美しい、立派な馬車や従者になりました。
「こんなもんかしら・・・。起きなさい、ヴァルデレラ」
えいっと気合いを入れてヴァルデレラを起こします。
「う・・・・・」
「じゃ、これ履いてね♪」
魔法使いのお姉さんが取り出したのは美しいガラスの靴でした。
「ガラスの靴?」
まだずきずきする頭を押さえながらヴァルデレラは見たまんまのことを言いました。
「そうよ。奇麗でしょう?」
ヴァルデレラに靴を履かせ、馬車に押し込むといろいろな注意事項を教えてくれました。
「いい?魔法が効いてるのは夜中の12時まで。それを過ぎると元のかっこうに戻ってしまうわ。
だからそれまでには帰ってくるのよ?」
「12時って・・・・もう1時間もないじゃないかっ」
そうです、ヴァルデレラがドレスを選ぶのに手間取って予定を大分オーバーしてしまっていたのです。
「手間取ってって・・・このお嬢さんの着せ替え遊びに付き合ってたせいじゃないか・・・」
「それとね。このガラスの靴・・・壊れるから」
「・・・・・はい?・・・・」
「だってあたりまえじゃない。ガラスで出来てるんだもの」
あっさりと答える魔法使いのお姉さん。
「じゃあなんでこんなもん履かせるんだ?」
「だってそういう決まりなんだもの♪」
そうです。シンデレラといったらガラスの靴!お約束です。
「決まりって・・・だって・・・」
「ああああああっっ!!!時間がないわっっ!!いってらっしゃいヴァルデレラ!気を付けて歩くのよおおおおおっっ!!!!」
やさしく送り出され、馬車は疾走します。
「普通に歩ける靴がいいいいいぃぃぃぃぃぃっっ!!!!!!!」
・・・こんなヴァルデレラの歓喜の声を響かせながら・・・・・。
《第3幕》
家来らしき老人が豪華な作りの椅子に座っている一人の男に話しかけています。
「王子様」
王子と呼ばれた男はつまらなそうにあたりを見つめています。
「あそこにいる隣国のお姫様などはいかがですか?」
「タイプじゃねぇな」
長く赤い髪を後ろで束ねた精悍な顔立ちの男です。
「ではあちらのお嬢さんは?」
「もう食ったからいい」
「は?」
家来は最近耳が遠くなったからだと自分に言い聞かせ、あえて追求しませんでした。
「そろそろお決めになって下さいませんと・・・・」
「わかってる!」
イライラと声を荒げて答えました。
「ったく、どっかに手付かずの好みのタイプが落ちてねえかなぁ・・・砂漠にでも探しにいくかな・・・」
などとつぶやいています。
豪華な食事の回りに人垣が出来ています。
継母リナのものすごい食欲に皆気おされ、遠巻きに見ているだけなのです。
「いまこそ!!私たちの愛と正義と勇気と真実を持ってこの世から悪を追い出すのです!!!!!」
少し離れたテーブルにはその上に乗り、熱弁を振るうアメリアの姿が見えます。
「さあ!!皆さんご一緒に!!!人生ってすばらしい!!!!!!」
ゼロスは・・・・・隅で苦しそうにうずくまっています・・・・・・・。
アメリアの講釈がかなり効いてる模様です。
そこへ、一人の女の子がやってまいりました。ヴァルデレラです。
しずしずと優雅にヴァルデレラは歩きます。無理もありません。激しく歩くと靴が割れるからです。
突然現れた美しい女性に皆注目しました。某3人は除いて・・・。
もちろん王子も見逃すはずがなく、モロ好みのタイプだったヴァルデレラに近づいていきます。
「よしっ決めた!!こいつにする!!」
そう言うとヴァルデレラの腕を取り引きずって行こうとしました。
「ち・・・ちょっとおおおっっ」
驚いたヴァルデレラは思わずたたらを踏みます。
「ん?」
「あの・・・どこへ行くんでしょう?」
悪い予感がしてヴァルデレラが聞きます。
「どこって・・・俺の部屋に決まってるじゃねーか」
きっぱりと言う王子様。
「え?・・・いや・・・そういうものには手順ってものがあると思うんですけど・・・・」
焦ったヴァルデレラが思いとどまらせようと説得します。
「細かいことは気にするな」
実もふたもない言いようです。
「かなり大きな事だと思うんですけど・・・・」
そんなこと言っても聞く耳持ってないようです。
そこへ・・・。
「ちょおおおおおっっっっっとまったああああああっっっっ!!!!!!」
継母リナが口を挟んできました。
「なんだ?」
王子様はめんどくさそうに聞きます。
「その子はうちの子よ!勝手に持っていかないでよ!!」
王子様に引けを取らないほどきっぱりと答えました。
「お母様っっ」
いままで辛く当たってきた継母が自分を助けてくれるとは思っても見なかったヴァルデレラは感動してしまいました。
「その子はうちの家政婦なんだから!いなくなったら誰がご飯作ってくれるのよ!!!!」
ちょっとなにかが引っかかりましたが深く考えないようにしました。
「ふむ・・・」
王子様は一瞬なにかを考え、ニヤリと笑うとこう言いました。
「なら、この国一番のレストラン1年間無料食べ放題でどうだ?」
「よし売ったああああっっ!!!!!」
「・・・・・・。」
これ以上ないと言うくらいの即答に言葉もありません・・・。
「じゃ、行くぞ」
意気揚々とヴァルデレラ連れ部屋に引き揚げていく王子様。
ドナドナド〜ナ〜ド〜〜ナ〜〜〜〜・・・・・この歌がヴァルデレラの頭を駆け巡りました・・・。
王子の部屋に連れ込まれかなり危ない状況になった瞬間、12時の鐘が鳴り響きました。
「あ・・・・」ここぞとばかりにヴァルデレラは王子に告げます。
「王子様。わたくし12時までに帰らなければならないんです・・・」
それを聞いた王子は憮然とした表情をしています。
「なぜだ?」
「12時を過ぎるとこのドレスも宝石もすべて消えてしまうんです・・・」
うるうると瞳を輝かせ訴えるヴァルデレラ。
「ほう。なら脱がせる手間がはぶけるってもんだ」
「は?」
そうこうしているうちに12時は過ぎ、魔法の効力が消えてしまいました。
「ああっっ・・・・・・・・・・」
あられもない姿になってしまったヴァルデレラは恥ずかしさのあまり顔が赤くなります。
「や・・・やめてください〜〜〜〜」
「いーじゃねーか。ぜんぜん出番がなかったんだからこのくらいのおいしいことないとやってらんねーよ」
「そんなああああああああ・・・・・・・・・・・・・」
「♪」
こうしてヴァルデレラと王子は末永〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし♪♪♪♪
FIN