匿名希望
「この子かわいいでしょう?」
とゼロスに赤子を見せたのがその辺の人間だったら話は簡単だっただろう。潜んでいるなら適当に相づちを打ち、そうじゃないなら殺せばよいのだから。
しかし満面の笑顔でそれを見せたのが敬愛する上司たる獣王様では反応に困る。
赤子の姿をしているが魔族らしい。がそれぐらいしか分からない。
「ええと・・・・」
「父親に似てるでしょう?」
他意がないように続けられた言葉も状況を考えると異様すぎる。
冗談にしてもどう言葉を返せばお気に召すだろうと考えながら場をつなぐために赤子の姿を見る。
父親というからには男性形の魔族から作られたのだろうかと考えたが心当たりはない。
というよりある意味ありすぎる。魔族だから外見は関係ないと言えばそれまでだが繰り返す。やっているのはゼラスである。
赤子はゼロスに似ていた。人間ならば隠し子なんかいませんと叫び出すかもしれないところだ。
「・・・・ちなみに母親はどなたなんです?」
代わりにゼロスはおそるおそる尋ねた。ゼラスが満面の笑みを浮かべる。
「そう、この子は私とダーリンの間に出来た貴方の兄弟よっ」
ゼロスは固まった。
「やった。効いてます」
突然聞こえた場違いな声にゼロスは我に返った。
いや、場違いなのはさっきまでの方だろう。周りにはゼラスも悩みの根元もいない。
「・・・・アメリアさん、何かやりました?」
「新しい精神攻撃方法の実験です」
「忠告しときますけど」
ゼロスのいつもの笑顔が怖い。
「止めさすまでやらないと間違いなく返り討ちにされますよ?」
<FIN>