すべての源へ

松原ぼたん 


 

 Lina side

 

『僕は貴方を愛しています』

 目の前のゼロスはいつもと同じ姿をしていたもののどこか儚げて、目を離すことができなった。

『一緒に行きましょう、全ての源に』

 そう言ってこっちに腕を延ばして来る。

 遠くで誰かがあたしの名を呼んでいる。

 それにかまわずあたしはその手の取る。

『後悔しませんね』

 その言葉に頷く。

 ゼロスがあたしを抱き締めた。

 何よりも幸せを感じる。

 ところがそれを邪魔するようにあたしを呼ぶ声がどんどん大きくなる。

 ・・・・うるさいなぁ、何なのよ一体!?

「・・・・さん、リナさん・・・・・」

 声はまだ続いている。

「リナさんっ」

 その声であたしは跳び起きた。

「なっ、何なのよアメリア」

 はっきり言って本気で心臓に悪かったぞ。

「それはこっちの台詞です。今日は早く出発しなきゃならないとかいっておきながら寝

坊しないでください」

 ・・・・そーだった。

「ごめんごめん、あんま夢見が・・・・」

 夢見が・・・・どうだったったけ?

「どんな夢を見たんですか、リナさん?」

 えーっと・・・・?

「忘れちゃった」

 なんか妙に幸せな感じだけが残ってる。くぅう、惜しいことをしたわ。

「まあ、いいです。とにかく早く起きてください。もう朝ごはん食べはじめますよ」

「ちょっと待ちなさいよ」

 こうしちゃいられないわ。

 

「へーわねー」

 街道には木々が茂り、風にあわせて葉をざわめかせ心地よい音を立てている。それに

小鳥のさえずりがアクセントを添える。

「ほんとだよなー」

 陽気に眠気を誘われたのかガウリイが欠伸をする。

「平和なのは世の中が正義に満ちているからに外なりません」

 やたらと上機嫌なアメリア。

 ゼルは何も言わないものの心なしか表情が柔らかい。

 そして・・・・。

「どうかしましたか、リナさん?」

 アメリアが不思議そうな顔をする。

「ねぇ、もう一人ぐらいいなかったっけ?」

「旦那じゃあるまいし、何ボケた事を言ってるんだ、リナ?」

 あたしの言葉にゼルがそういう。

 ゼルが言ったって事は本当に誰もいないんだ。

 なら、この違和感の正体は何だろう?

「僕の事ですか、リナさん?」

 降って来た声とともに疑問は氷解した。

「そうよ、ゼロスよ」

 なんで忘れてたんだろう、信じられないわ。

 ゼロスはあたしの前に降り立った。

「リナさん、どうして来てくれないんです?」

「どうしてって・・・・?」

 あたしなんか約束してたっけ?

 いきなりゼロスの姿はかき消えた。いつものことと言えばそれまでだがあまりにトー

トツだった。

「リナさん今の魔族じゃなんですか、どういうことです!?」

 アメリアがいきなり食ってかかって来る。何よいまさら!?

「どういうことだ、リナ?」

「なんなんだぁ?」

 ゼル、ガウリイ、知らないの?

 一体何がどうなってるのよ!?

 

「リナさんは目を覚ましませんか?」

 枕元でアメリアの声がする。

「傷は全部治っているはずなのに」

「リナ、頼むから目を覚ましてくれ」

 いつになく真剣なガウリイの声。

「まさかリナがゼロスと心中しようとするとはな・・・・」

「そんなはずはない。リナはそんな弱い人間じゃない」

「そういう基準ではかれるものでもないだろう?」

 何の事だろう?

 あたしはゼロスを捕まえて説明してもらわなきゃならないのに。

 一体、どういう事なんだろう?

 

 Zelgadis side

 

 俺たちがリナを見つけたとき、正直もう死んでいると俺は思った。

 いつも彼女の存在を示すあの輝きがそこにはない。

 さすがのアメリアも何をしていいか分からなかったのだろう。ひたすら泣きじゃまく

っている。

 ぐったりとしたリナを抱き締めていたゼロスは、リナを傍らに降ろすと、何よりも愛

しいものを見るような眼差しを向ける。

「ゼロスっ」

 その隙を逃さないかのようにガウリイがゼロスに切りかかった。

 ゼロスは避けなかった。何かの作戦だろうか?

「リナ!?」

 ガウリイはそんなことを気にせずリナに駆け寄り彼女を抱き上げる。

「まだ息がある」

 心なしかガウリイの表情が緩む。

「アメリア、復活を」

 俺の言葉にビクッと一瞬肩を震わせ、それでもアメリアはリナに駆け寄ると復活を唱

えた。

「・・・・とりあえずは大丈夫です。ちゃんと魔法医のところへ連れて言った方がいい

と思いますけど・・・・」

 死にかけたリナよりもよっぽど悪い顔色をアメリアはしていた。

「何があった?」

 俺はたずねた。もしゼロスが攻撃して来たのならアメリアも無傷ですむはずがない。

「リナさんは・・・・」

 ちらっとリナと、彼女を抱いているガウリイに視線を向ける。

「・・・・ゼロスさんと心中したんです」

「!? どういう事だ!?」

 思わずアメリアの肩をつかむ。

「ゼルガディスさん、痛いです」

「あ、ああすまない」

 手を離す。

「ゼロスさんがリナさんを愛していると。一緒に全ての源へ行きましょうと」

 全ての源――混沌の海。そこへ行くというのは?

「そうして差し出した手を・・・・リナさんは取ったんです。ゼロスさんがリナさんを

抱き締めたとたん黒い錐がリナさんを貫いて・・・・」

「もういい、アメリア」

 再び泣きはじめたアメリアにとりあえずそういう。

 ゼロスが避けなかったのは・・・・自殺だったのか。

「リナ、リナ」

 ガウリイがリナの名を呼び続けている。

 リナは目を覚まさない。

 

 Xelloss side

 

「今、なんとおっしゃいましたか獣王様?」

 僕は恐る恐るそう聞き返しました。

「あら、耳でも悪くなったの?」

 獣王様はどこか楽しげにそうおっしゃってから同じ言葉を繰り返しました。

 本当に耳が悪くなったのならどれだけよかったでしょう。

「リナ=インバースを殺して来なさい」

 獣王様は気づいておられるのでしょうか?

 僕が彼女を愛していると言うことを。

 今となっては彼女の存在は滅びを望む気持ち以上に強いのです。

「分かったわね、ゼロス」

 しかしその言葉には従うしかありませんでした。

 

 どこかに彼女とともにずっと過ごせる場所はないのでしょうか。

 人も魔族もない静かな場所は。

 全ての源のように。

 もし、リナさんに一緒に行きましょうと言ったらどんな反応を示すでしょう?

 本気にしませんか? 怒りますか? それとも・・・・。

 一緒に来てくれますか?

 僕はリナさんを愛しています。

 

 Ameria side

 

 リナさんが魔族の戯言に耳を貸すはずはありません。

 そう信じていました。

 リナさんが、ゼロスさんの手を取る瞬間まで。

 止めようと思ったもののリナさんの見たこともないほど幸せそうな微笑をみてあたし

は動けなくなりました。

 一体、いままであたしはリナさんの何を見て来たのでしょうか?

 その考えに気を取られているうちにリナさんは錐に刺されてしまいました。

 その瞬間、あたしは泣き出しました。

 自分でも何故泣いているのか分かりません。

 リナさんが死んだのがかなしかったんでしょうか?

 それともあたしがリナさんの事をよく知らなかったと言うことが悔しかったんでしょ

うか?

 リナさんの表情は穏やかでした。

 

 Gourry side

 

「リナ・・・・」

 リナは眠っていた。

 一体、どんな夢を見ているのだろう。

 心中だって、そんな莫迦な!?

 リナに限ってそんなことがあるはずがない。

 そんな弱いはずはない。

 ・・・・きっとリナは疲れているんだ。

 眠って、疲れが癒えたら帰ってこい、リナ。

 俺の所に。

 

 

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