キャナル=ヴォルフィードの優雅な午後

松原ぼたん 


 ある日の昼下がり。

 ケインとミリィは買い物だがなんだかで出かけている。

 キャナル=ヴォルフィードは独り『ソードプレーカ』に残っていた。

 椅子に座って優雅な手つきで文庫本をめくっている。

 無論、立体映像の彼女が見たとおり文庫本を読んでいるわけではない。

 今彼女は星間警察のコンピューターに強制進入していた。

「あら?」

 ふと、そう呟いて手を止める。

 見る間にその顔がひきつり、文庫本を親の敵の様に睨み付ける。

 無論、これも立体映像である文庫本に罪はない。

「……けぇいぃん……」

 しばらく沈黙した後、彼女は地の底から響くような声でそう呟いた。

「だだいまー」

 タイミングがいいのか悪いのか、そこにケインが帰ってきた。

 音もたてずキャナルが勢いよく立ち上がる。

「またチョコレートばっかり買いやがって……」

「いいじゃない、乙女の必需品よ」

 などと会話をしながらケインたちが入ってくる。

「キャナル、留守番ごくろーさん……って」

 キャナルの様子に気づいたのかケインが怪訝な表情を浮かべる。

「ゆるしませんっ!!」

 キャナルが叫んだ。

 

 

「おや?」

 同じ頃。

 星間警察の端末の前に座っていたレイル=フレイマー警部もそう呟いて手を止めた。

 彼が見ていたのは――ケイン=ブルーリバーの罪状だった。

 殺人罪から始まって器物破損、婦女暴行、果ては食い逃げまで細々と書かれている。

 レイルはその原因についてありすぎるほどの心当たりを持っていた。

 先日、街で会ったミリィに声をかけたところ「ケインに用事頼まれてるからー」と逃げられたのだ。

 その腹いせに書類にケインの罪状を落書きしだのだが……。

 いつの間に受理されていたのだろう?

「まあ、そう事実と違うわけでもないし……」

 物騒な事を呟いて、レイルは本来の仕事に戻っていた。

 

 

「うわわわっっ!?」

 ミリィはいきなり浮き上がったケインを、声も出せず驚愕の目で見つめていた。

「そこで反省してなさい!!」

 キャナルが言う。

「いつからこんな事出来るようになったんだよっ!?」

 無重力の様な空間内で手足をばたばたさせてケインが怒鳴る。

 その拍子にバランスを崩す。

「わたしだって日々進歩してるんですっ!!」

 ミリィは呆然その様子を見つめていた。

 優雅な午後はもはや欠片も存在していなかった。

 

 


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