松原ぼたん
一面、白く冷たい雪に覆われていた。
その調和を壊そうとでもするように少女が一人横たわっている。
彼女の瞳は閉じられ、辺りの冷たさにかまう様子もなかった。
死んだのかと近づいてみると、積もった雪を払うかのようにまつげを震わせた。
目を開ける。
彼女は起きあがった。
確かめようと途中までのばしていた僕の手を、彼女の両の手が取った。自らの頬に導く。
頬は手と同じぐらい冷え切っていた。
――けれどそれでも僕の体温の方が冷たかった。
「もうすぐ、同じ温度になれるわね」
言って彼女は微笑う。
その表情がすでに意図したとおりに作られなくなっていることに彼女は気づいているだろうか?
同じ温度になったとき、自らの命もぬくもりと同じく消えるということを分かっているだろうか?
それでもその笑顔は美しかった。
どこまでもまっすぐに狂っていた。
たとえ死んでしまったとしても、種族という名の温度差は消えはしないのに。
魔族の僕が気持ちに応える事はないのに。