松原ぼたん
「ゼロス、宴会しましょう?」
「じ、獣王様!?」
「違ったわ、お花見しましょう?」
「・・・・あまり違わないと思いますが・・・・」
「・・・・ゼロス、私はリナ=インバースじゃないのよ?」
「す、すみません」
「けどそれはいい考えだわ。ゼロス、お団子とお弁当とお酒の準備お願いできて?」
「・・・・分かりました」
「ちゃんとどこかで調達してくるのよ? 作るんじゃないわよ?」
「・・・・はい?」
「どこも込んでるわねー」
「あのー、獣王様?」
「何?」
「・・・・花だけとか、木の方を持ってくるという方法もあったのですか・・・・」
「何いってるの、出かけてこそのお花見よ」
「・・・・どこがリナさんと違うんですか・・・・?」
「何か言って?」
「・・・・いいえ、何も・・・・」
「あら、あそこ空いてるわね」
「・・・・人がイヤならこなければいいじゃないですか」
「人の隙間探すのも醍醐味なのよ・・・・あら?」
「あっれー? ゼロスじゃない。そっちは・・・・獣王よね確か?」
「ゼラスと呼んで頂戴」
「了解。あんたたちもお花見? よかったら一緒にどう?」
「リナさんっ、獣王とおトモダチになんてならないで下さいっ」
「・・・・すでにゼロスは気にしてないあたり充分なじんでると思うがな」
「何でここだけ空いてるんですか?」
「ああ、リナに無謀にも絡んできた酔っぱらいに・・・・」
「余計なことを言うんじゃないっ」
「随分と楽しそうね、是非混ぜて頂戴」
* * *
後はただただなし崩し。
* * *
天上にはいつの間にか月が浮かんでいた。
おぼろな月をさらに舞い散る花びらが霞ませる。
あたりで騒いでいる人間はまだいるものの、一緒に杯を重ねていた存在は今や桜の幹にもたれて寝息を立てている。
それだけで、随分と静かに感じる。
「桜の下に死体が埋まっていると言ったのは人間なのかしら? 魔族なのかしら?」
そのつぶやきは花びらとともに風に乗り、けれど部下の耳にしか届かない。
「ならば元は白い花だったんですね」
月の光に透ける花びらはそのかすかな紅さすら分からない。
どちらかといえば青白い。
その色が映ったのかリナの顔もどこか青白い。
眠っていると分かっていても、閉じた瞳は死を連想させる。
一瞬ざわめいた心をゼロスは気づかないふりをした。
けれど隠しきれるはずもなく。
ゼラスの表情が寂しそうに見えたのも月の明かりのせいだろうか?
けれど次の瞬間、降る花びらよりも柔らかく微笑みを浮かべる。
そんな表情にゼロスは気づかない。
「皆さんをどうしましょう?」
いつもの笑顔で問われ、ゼラスは笑顔をいたずらっぽいものに変える。
「そうね。風邪をひいたところで私が困る訳じゃないけれど、さすがにそれは薄情かしら?」
笑みがさらに楽しげなものになる。
「そういうわけだからお願いね」
「ちょっ・・・・」
立ちつくすゼロスの上にも静かに花びらが降り積もっていた。