松原ぼたん
『桜の下に死体が埋まっていると言ったのは人間なのかしら? 魔族なのかしら?』
以前、獣王様がそうおっしゃったことがある。
あるいは随分と魔族的な印象のある状況だが、おそらく言い出したのは魔族ではあり得ない。
魔族は死体に何の感慨も持たない。
そもそも魔族が死ぬ――滅ぶなら死体と呼ぶべき物は残らない。塵を残すものもいるが、それは何ら意味もない物だ。
そして、魔族以外の存在の死体はそれ以上に価値を持たない。殺したからと責められて困る存在もなければ、横にあったからといってさほど気にとめる魔族もいない。
だから死体を隠す必要も埋める必要もないのだ。
ましてや悼む必要はもっとない。
どこの魔族がわざわざ木の下に死体を埋めるというのだろう。考えすらしないだろう。
・・・・それとも誰かに心を寄せた魔族がいたのでしょうか?
『ならば元は白い花だったんですね』
確か僕はこう答えた。
お互い、ほんの戯れでしたやりとりだった。
薄く紅い桜の花びら、それは死体という存在によって染められたのではないか? と。
けれど僕が連想したのは赤い血ではなかった。
とある少女の瞳に宿る色――。
人間がすべて赤い瞳をしているわけではないと分かっていても、真っ先に思い出すのはその色で。
それだけ印象が強い存在。
彼女を埋めれば桜はもっと紅くなるでしょうか?
それとも僕のこの気持ちを埋めましょうか?
いつか別れはやってくる。
・・・・誰かに心を寄せた魔族がいたのでしょうか?
僕と同じように。