松原ぼたん
「親分、雪、降ってる」
朝、起きてきたヴァルに向かってジラスが嬉々として報告している。
そういえばこの辺りは暖かいのか雪が降った記憶は数えるほどしかない。もしかすればヴァルにははじめてかもしれない。
「遊びに行くなら朝ご飯を食べてからにしないさいね」
一般的に子供は雪が好きだというからそう返した。
「ううん、行かない」
そういわれてむしろ慌てたのはフィリアの方だっだろう。
「寒いから?」
愚にも付かないことをきく。雪が降らなくても寒い日は幾らでもあるし、ヴァルは平気で外へ行ったし、買い物などもついて来たがった。
脳裏に浮かぶのはかつてヴァルガーヴとの雪の中のやりとり。あるいは知りうる限りのヴァルガーヴの過去。
もしも思い出したのだとしたら・・・・、それで雪を嫌がってるのだとしたら・・・・。
「違う」
フィリアの内心を知ってか知らずかヴァルはあっさりと否定する。
けれどその後に続けられた言葉は予想外だった。
「けどフィリアは雪が嫌いだろう?」
「わた・・・・し?」
そんなこと言ったことも考えたこともなかった。
けれどそれで動揺したことも事実。
ヴァルはどこかでそれを感じ取っていたのだろう。
おそれているのは雪ではなく・・・・。
「だから今日は家でずっとフィリアといる」
フィリアは知らず知らずのうちに笑みを浮かべている自分に気づいた。
「有り難う、ヴァル」
心から言う。
「けど大丈夫よ? だから遊んでらっしゃい」
おそれていたのはヴァルを信じられない私の心。