松原ぼたん
そこは一面の雪野原だった。
「ゼロス・・・・」
呟いた愛しい名前は白い息へと変わる。
この白い世界ではゼロスの姿は否応なしに目立つだろう。
あたしは辺りを見回した。
けれど辺りにそれらしき影は見えない。
「そうよね・・・・」
別に約束をしていた訳じゃない。
・・・・きっとどこかでいつもあたしのことをみていると思ってた。
・・・・名前を呼べば来てくれるんじゃないか、そう思ってた。
会いたかった。
「・・・・リナさん」
その声に勢いよく振り返る。
いつの間にか雪が再び降り始めていた。
その白さにとけ込まぬ黒い姿が存在の証のようで嬉しかった。
どうなってもかまわなかった。
あたしはゼロスの方に向かい走り出した。
正直、二度と彼女に会う気はありませんでした。
僕の彼女に対する感情は正直魔族にとっては持て余す物です。
決していい結果を招く物ではないでしょう。
けれど僕は来てしまいました。
呼ばれた様な気がしたとたんいても立ってもいられなくなったのです。
静かに雪が降り積もります。僕にも、腕の中のリナさんにも。
リナさんの髪に、肩につもった雪は次第に色を失い、解けてゆきます。
一方僕に積もった雪は解けもせず残っています。
白と黒。
・・・・これが魔族と人間の差なんですね。
いえ、むしろ今は大切な人を濡らさずに済むことを喜ぶべきでしょう。
僕はマントでリナさんを包みました。
「・・・・暖かい」
どうして僕たちは出会ってしまったんでしょう。
静かに雪は降り積もる。