『私と駆け落ちしてください』
セイルーン・シティの小さなメシ屋で突然の告白。
すべてはその一言から始まったのかもしれない。
・・・・・・いや、本当はもう少し前に。
些細と言えば、些細なきっかけ。
「貴様が魔王シャブラニグドゥを復活させようとしているイカレた野郎か」
さびれた街道で、どうやら待ち伏せしていたのだろう。
実にタイミングよく姿をあらわした、おそらくは傭兵らしき、ガラの悪い男の言葉を適当に聞き流しつつ、ため息を吐いた。
『こんなこと、頼めるのはゼルガディスさんだけなんです』
あの時、アメリアの思いがけず真摯な瞳を見なければ。あるいは、心の片隅で、そんなことを考えていた自分に気づかなければ、回避できるたぐいの出来事だったのだろう。・・・・・・おそらくは。
そうでなければ、いまだ「駆け落ち」の理由も聞けず、逃げ回っている自分の行動理由が分からない。
たとえ、そこに誤解と勘違いがあったとしても。
「・・・・・・だんだんとグレードアップしてますね」
傍らでアメリアがさすがに呆然とつぶやいた。
そうだ。確か初めは「姫様をかどわかした傭兵」だったはずだ。
少なくとも親衛隊長とやらは、そういっていた。
「駆け落ち」の相談を持ち掛けられて、愕然としている時に、そんな訳の分からないことをいわれ、問い詰めようとしたら、何かの拍子で彼はとなりのテーブルに倒れ込み・・・・。
そしてあっという間に大乱闘が始まり、そのどさくさにアメリアと逃げ出した。
それがまずかったのか、気がつけば、言い逃れのできない状態になっていて。
放任主義のフィル殿下も、今回に限ってはどうしてもアメリアを手元においておきたいのか、自分達の手配は驚くほどスムーズになされた。
おかげで逃亡半日だというのに立派なお尋ね者。
しかも、目立つ容貌のせいで追手は次から次へとやってくる。
いわく、「婦女連続誘拐犯」いわく、「ロリコン男」いわく、「残虐非道な魔剣士」などという身に覚えのない代名詞と共に。
今更罪状が増えたところで怖くもないが・・・・・・しかし・・・魔王を復活させるというのはどこから出てきた発想なんだか。
あんな物に二度と関わりたくないというのに。
噂とは怖いものだとつくづく思う。
「そっちのお嬢ちゃんは生け贄にでもすんの・・・・」
「魔風!!!」
人違いされてる可能性もなきにしもあらずだが、道をふさぐのであれば、排除させてもらう。
「どひいいいいいいいい・・・・・・・・」
あっけなく吹き飛ぶ傭兵。
「・・・・・・なんだか、いきなり攻撃するところ、リナさんに似てきましたね」
「う・・・」
ポツリとつぶやくアメリアのセリフに少し傷つく。
「そういえば、リナさん達心配してないでしょうか?」
それに気づいてか、慌てて話題を変えるアメリア。
そういえば、何も言わないまま姿をくらましてしまったが、まあ、彼女たちのことだ。さほど心配はしてまい。
「案外、賞金目当てでそこらの傭兵達と一緒になって探してるかも知れんな」
「そうですね。案外すぐ近くにきてるかもしれ・・・・・・・」
「見つけたわよ、金貨1000枚」
聞きなれたその声に、思わず凍る。
茂みをかきわけ、現れたのは、たった今噂をしていた人物。
だとすれば。
「結構探したんだぞ」
次に出てきたのは金髪の自称「リナの保護者」。
「リナさん!!!!ガウリイさん!!!」
アメリアが嬉しそうな声を上げるが、どうやら歓迎できる状況にはおもえない。
「金貨1000枚ってのは俺達のことか?」
「そういうこと。フィルさんに頼まれたのよ。なんだか、怪しい噂が流れちゃってるけど、おとなしく捕まってくれたら、それがガセだって証明してあげるし、100枚ぐらいなら分けてあげるわ」
「リナにしちゃ太っ腹だぞ」
正直いって、こいつらを敵にまわしたくない。
しかし・・・・・賞金が懸かっている以上見逃してはくれないだろう。
・・・・・・・・・ダメもと・・・・・・か?
「そんな!!!リナさん達まで私たちの邪魔をするんですね!!!私たちの友情はそんなに壊れやすかったんですか!!!!!」
「・・・・・・リナ殿をせめるでない」
いさめるような声がして、茂みが大きくゆれる。
そして、少し困ったような顔をした大男が姿をあらわした。
「・・・・・・とーさん・・・・・・・」
アメリアが呆然とつぶやいた。
「・・・・・・そんなに、見合いはいやか?」
フィル殿下は穏やかに問う。
「・・・・見合い?」
「私・・・・お見合いをさせられるんです」
たずねるとポツリとつぶやく。
「それは、それで仕方ないことなんですけど、でも、許せないのは、私に内緒にしてたってことです!!親子の間で隠し事なんて正義じゃないです!だから、私はゼルガディスさんと駆け落ちします!!!!!!」
何やら、話が飛びすぎてる気がしないでもないが、ようやく「駆け落ち」の理由が見えてきた。
「いや・・・・それは・・・・・・」
困ったようにこめかみをかく。
「黙っておったことは謝るが・・・・とにかく会ってくれんか?わしの顔を立てると思って」
「いやです!!!!」
「悪い話じゃないんだが・・・・・」
・・・・・・駆け落ちの理由は、そんなことだったのか・・・・。
親子の言い争いを見つめ、小さく呪文をつぶやく。
「往生際が悪いわよ、ゼル」
リナがそういうと同時にガウリイが動く。
しかし、術の完成の方が早かった。
「眠り」
解き放つ先はとなりに立つ、ともにありたいと思う少女。
「!!!」
眠りに落ちる瞬間の驚愕の表情。
「どうして?」
自分の腕の中へたおれこむ、アメリアの声にならない想いが心に突き刺さった。
「・・・すまんの。ゼルガディス殿」
「・・・・・・いいのか?」
フィル殿下とガウリイの声に自分は首を振ることしか出来なかった。
そうして、何もしないまま時だけが過ぎて行き・・・・・。
アメリアの見合いのその時間、自分は机にひじをつき、なにもせず、ただ目を閉じていた。
コンコン。
軽いノックの音がして、ドアが開かれれば、そこにいるのは、正装の少しふてくされたように下を向いたままの少女。
「ほら、アメリア。お見合いの相手がお待ちかねよ」
付き添いのつもりか、そばにいたリナがアメリアの背を押す。
それで顔を上げ、ようやくこの部屋にいるのが誰かわかったらしい。
大きい瞳が更に大きくなる。
「ゼルガディスさん・・・・・・」
呆然と立ち尽くす。
「どうして?」
「じゃ、あとはごゆっくり」
リナはウインク一つ残すと、アメリアの質問には答えずに、とっとと部屋から出ていってしまった。
「・・・・・・・・・つまり、こういうことだ」
仕方なくゼルは立ち上がると、ぶっきらぼうに言った。
「あんたが嫌がっていた見合いの相手は俺だ」
そうして見事にセイルーン風の礼をとる。
「黙っててわるかった」
「じゃ・・・・じゃあ・・・・私一人でおおさわぎしてたんですか???????」
しばしの沈黙の後、うなるように声を出す。
真っ赤な顔は怒りのためか。
「あれじゃ、駆け落ちなんかじゃなくてただのデートじゃないですか!!!!!」
デートというには邪魔が多すぎたような気もしないでもないが、 あえて口にするほどのこともない。
「どうして教えてくれなかったんですか!!!」
「見合いなんてしたくなかったからだ」
「え?」
「いまさら見合いなんてして何になる?」
急に哀しげな表情になったアメリアを見て、慌てて言葉を付け加える。
「ずっと一緒に旅をしてきて、互いにいろいろな面をみてきてるんだ。いまさらあらたまった席は必要ない」
そもそも、すべてはリナが仕組んだこと。
「あんたたち見てるとじれったいわ」
あんただけにはいわれたくない。内心思ったものの、我が身かわいさに口には出来ない。
「はっきりしてあげないと、アメリアがかわいそうよ」
そうして、だんまりを決め込んでるうちに、気が付けば、なぜかフィル殿下の許可までもらった見合いの話になっていて。
けれど、自分はどちらでもよかったのかもしれない。見合いでも、かけおちでも。きっかけさえあれば。
そう・・・・・・本当に些細なきっかけがあれば。
目の前の少女を見つめる。
「アメリア・・・・俺は・・・・・」
それは大きな決心になるから。
FIN
はい。そんなわけで、これは知る人ぞ知るというお話ですね(笑)
人様のHPに載せさせていただいた物に、ほんの少し修正を加えたのもです。
本当はもっと書直したかったのですが、まあいろいろとありまして(笑)
さて・・・・いいかげん書き下ろしを書かねば・・・・・。
最後までお付き合いくださりありがとうございました。