give a reason
ふぉお

「あのさ、マゼンダ・・・」

世間一般で言われる丑三つ時。さーて、そろそろ寝ようかしらと思っていると、部屋のドアが控えめに叩かれ、開けてみればそこに立っていたのは、元古代竜、今は半魔族の青年。

「どうしたの?こんな時間に・・・・・珍しいわね?」

もともと、自分からは他人と交わらない彼がわざわざ部屋に訪れるなんて。

「いま・・・・いいか?」

なにやら、浮かない顔をしている。

「どうぞ?」

私は彼を部屋に招きいれた。

「あ・・・・・寝るところだったなら・・・・・」

「別にかまわないわ」

もともと、純魔族である私に睡眠は必要じゃないし。

ただ、今は、特にやる事もなく、主を真似て人間のふりをしているだけのことで。

「どうしたの?落ち込んだような表情して」

来客に対してお茶を入れるなどという、人間じみたことを自然にこなしてしまう自分にこっそり苦笑し

つつ、ヴァルに問う。

「俺・・・・・・・・・・」

そういったまま黙り込んでしまう。

どうせ急かしたところで、何も言わない事は目に見えている。

私は入れたばかりの香茶を口に含みつつ、次の言葉を待つ。

「・・・・・・・・・・・・・・邪魔か?」

ゆっくりと100数えるころに、ようやくそれだけを口にした。

「・・・・・なにが?」

さすがに意味がわからず、聞き返す。

「俺・・・・・ここにいてもいいのか・・・・?」

「・・・・・今更なにいってるの?」

本当に、なんて今更。

確かにガーヴ様が彼を拾ってきてからの日は浅くないとはいえない。

けれど、邪魔ならとっとと放り出しているわ。

「けど・・・・・何もさせてもらえねぇし・・・」

ああ・・・・それで・・・・。

確かにガーヴ様はこの子に何もさせてはいない。いわば「おみそ」状態だけど。

「不安なんだ・・・・・・」

ポツリとつぶやく。

「俺は、なぜここにいる?なぜ死にぞこないの俺を拾った?」

なにかするわけでもなく、ただ、ここにいる。

やはり、ただの気まぐれだったのだろうか。

ならば、いつ捨てられるかわからない。

不安という、私にとってはおいしい感情がヴァルを包み込む。

けれど、それは、かつての私が思ったこと。

「だったら、直接ガーヴ様にお願いしたら?なにかさせてくれって」

だからこそ、ガーヴ様がヴァルに何もさせない理由はなんとなくわかるのよね。

「いった」

「・・・・そうしたら?」

「『おまえにゃ、まだ無理だ』」

・・・・・・・・・・・・・。

私は深くため息を吐いた。

わざわざ一番傷つくような言い方しなくたって。

何よりも大切な存在ならば。

「・・・・大丈夫よ」

とりあえず、笑みを見せる。

「ガーヴ様は必要ない相手に『竜神官』なんていう称号を与えたりしないから」

それはいわば、ガーヴ様の手足になって動く者の名称。

挙げ句に御自分の名前まで与えてしまっている。

それだけの力と信用を得ている事にヴァル自身気づいていない。

ちょっとだけ嫉妬なんてものをしてるから、そこまで教えてあげるつもりはないけれど。

「けど・・・・・・・」

「・・・・そうね」

何か言いかけたヴァルの声を遮る。

「そんなにガーヴ様のお役に立ちたいなら、夜中にガーヴ様の寝所にでも行くことね。きっと、私たちがダメージ受けるほど喜んでくれるわ」

「・・・・・・・・はあ?」

意味がわからず、ぽかんとしたヴァルの表情が、なんだかおかしかった。

 

「よう」

「・・・・・あら。珍しいこともあるんですね」

いまいち納得しないながらもヴァルが部屋を出て、今度こそ寝ようと思っているところへ、今度は我が主殿がひょっこり顔を出した。

「・・・なんだよ、珍しいって」

どっかりとクッションに腰を下ろし、問う。

「いいえ、深い意味はありません」

一度はしまったカップに、再び香茶と大量の酒を注ぎ、主に提供する。

「ただ最近は常に誰かさんと一緒にいるようでしたので」

本当に意味もなく、ヴァルを自分に近くにおいていた。

だからこそ、彼は戸惑うのだろう。主に気に入られているという自覚がまるでないのだから。

そばにいさせてるだけで「好きなことしてていいぞ」といわれても、主の真意が読み取れず所在無さげにぼんやりしていたヴァルが気の毒というか鈍いというか。

「ほぅ・・・・・・嫉妬か?」

楽しげに笑う。

「そう思いたければどうぞ。特に否定はいたしませんわ」

否定するのも肯定するのもなんだか莫迦らしくて適当に流せば、ただニヤニヤと笑うばかり。

何を言ったところで、この主にはすべてお見通しなのよね。

こんな主に惚れてしまった自分を呪うしかない。

「・・・・・・・・ところで・・・・・・・さっきまで、ヴァルが来てただろ」

軽くため息をついたとたん、主はぼそりとつぶやいた。

「よくご存知ですね?」

「そりゃな・・・・・ずっとあいつの後をつけてりゃあ・・・・」

「・・・・・そういうのは人間界でストーカーって呼ばれてるらしいですよ」

「うるせぃ。・・・・・何しにきたんだよ、あいつは」

「・・・・・気になりますか?」

普段の言動を見ている限り、気にならないはずはないけれど。

だからこそ、にっこり笑ってじらしてみたくもなるのは当然の心理。

こういうのなんていったかしら。えーっと、乙女心?

「・・・・・・・・・大概いい性格してるな」

「お褒めにあづかり光栄ですわ」

けれど、あんまりからかっていて、いきなり滅ぼされるのは楽しくないわよね。

「おまえなぁ・・・・・・」

眉間のしわの寄せぐあいで潮時を悟る。

「ひとつお伺いしてもよろしいですか?」

「あん?」

「ヴァルのことどう思ってるんです?」

「かわいい」

きっぱりといいきられ、さすがに言葉に詰まる。

確かにヴァルはかわいいけれど、でも、たった一人の部下にめろめろだったりすると、魔竜王の威厳はどこに行ったのかしらという気持ちがこみ上げないわけじゃない。

「・・・・・何かいいたいことあるなら辞世の句代わりに聞いてやるぜ?」

「・・・・・・・・別に何もないですわ」

そんな主が、やや情けなく感じるものの、滅ぼされちゃかなわないという思いと、そう思わせるヴァルの魅力に無理やり自分を納得させる。

「で・・・・そのかわいいヴァルに何もさせないなんてどういうことでしょう?」

「どういうことって・・・・・・・ああいうのには何もさせないで、ただ傍に侍らすのが男のロマンだとおもわねーか?」

おもわねーかって・・・・・・・・・。

まあ・・・・・・・あの腰のラインなんかとってもエロティックで見ていて目の保養になるけど、でもだからって、カンヅェルやラルターク老にもエロ腰を強要させるのはやめてほしいとかラーシャート将軍なんかそれがいやで、なかなか帰ってこないのよねとかいろいろ思うことはあるけれど。

「・・・・・ヴァルがそれを納得していればいいんですけど」

「・・・しねーかなー?」

・・・・そう真剣に考えられても・・・・・・。

「まあ実際、あいつにゃ、まだそれぐらいのことしかできねーし」

「ずいぶんと過保護ですね?」

なんだか、いやみのひとつでもいいたくなってしまう。

「・・・・んなんじゃねーよ」

「あら、ちがうんですか?」

むすっとした顔を覗き込む。

「・・・・・あいつにはなにもさせたくねぇんだよ」

「それを過保護だと申し上げて・・・・」

「じゃあ、きくがな」

強引に遮られた。

「あいつになにさせりゃあいい?」

なにって・・・・・・・いろいろと・・・・・あったかしら?

「とりあえず、いまんとこ大したことうかばねーから城壁の強化とかさせたんだが・・・・・不器用なんだか、まだ力の加減がわかんねーんだか、何かやらせてもすぐ壊しちまうんだよ。あいつは」

それって・・・・・・・。

「・・・・もしかして、最近カンヅェルが金槌もってあっちこっちうろうろしてることに関係あります?」

このところ、あちらこちらが壊れていて、カンヅェルが補修している姿をよく見かける。

「・・・・・・多分してると思うぜ?」

「・・・・・・・・・・そういえば、いつのまにか居間のソファーもかわってましたね」

結構座りごこちがよくて、気に入ってたんだけれど。

「ああ・・・・・・・・掃除させたときにちょっとな」

「そんな掃除なんかさせないで・・・・そうそう、偵察とかにだしたらいいんじゃないですか」

「空間を渡れるようになったらな・・・・・翼なんか出されて偵察された日にゃ、目立ってしょうがねぇだろうが」

全言撤回。

過保護なんかじゃない。

確かにヴァルの力はすごいのだろう。きっと戦わせたら、主の腹心として恥ずかしくはないほどの働きを見せてくれるのだろうけれど。

でも、日常生活では・・・・・・・・・。

「では、ヴァルにはガーヴ様のそばにいるのが仕事だと伝えておきますわ」

「・・・あん?」

「あの子もいろいろと悩んでいたようですよ?何もしないでここにいていいのかと」

「・・・・・・・・苦労性だな。あいつも」

苦笑する。

幸せになれていないのだと言うが魔族の幸せって一体・・・・。

ここら辺は半分人間である主にしかわからない感覚なのだろう。

「ま、しばらくは俺の身の回りでも世話してもらうか」

邪魔したな。

主はそういってなかなか上機嫌に部屋を出ていき、私は主の「世話」なることがどんなことなのかあえて考えないことにして、茶器類を片づけた。

 

 

 

                                   <FIN>

 

 

 

 

きっとあまりないであろうマゼンダさんからの視点(笑)

彼女とヴァルが一緒にいたかどうかなんて知りませんけど、たまには設定無視するのも・・・ねえ?(無視しまくってるけど)

それにしても魔族らしくないですね。いいのかこんなほのぼので。というか、魔族って寝ると滅びるらしいですけど・・・・まあいいや。

ちなみに、カンちゃんおよび、ラクタークのエロ腰は人間ヴァージョンでのことです。魔族本来の姿だとカンちゃん腰ないし(爆)

ところで、マゼンダさん・・・・・詭弁って言葉知ってる?(謎)