おまじない

ふる 


「おーい、リナぁ〜。

 そろそろ行かないか〜?」

 

いま呼んでるのは、あたしの旅の連れのガウリイ。

今まで色々あったけど、結局は一緒に旅を続けているのよね。

これも腐れ縁ってヤツかしら?

 

最近までは、他にも旅の仲間がいたんだけど、

事情があって、今は別行動をしている。

まあ、それは良いとして、今はあたしとガウリイの2人旅。

 

「はいはい、今行くわよ!

 ちょっとガウリイ!あんた覗いてんじゃないでしょうね!」

 

「へ、何を?」

 

「、、、、。

 もういいわ、すぐ行くから待ってて!」

 

現在、あたしとガウリイは『セイルーン』から『ラルティーグ王国』

に向けて旅をしていた。

目的は、外の世界に向けて出発している船に乗る事。

それが最終的な目的では無いんだけどね。

 

それで、あたし達はセイルーンからテクテクと歩いて来たわけ。

乗合馬車とかが、無い訳じゃないんだけど、、、

あたしアレ苦手なのよね。

だって、一日中知らない人と顔を付き合わせていなくちゃいけないし、、

 

『ガウリイと向かい合って座れば良いだろ!』って?

 

チッチッチッ、、、乙女心ってもんがちっとも分かってないわね。

 

冗談はさておき、そういう訳で、今までテクテク歩いて来たのよね。

でも、歩くのは良いんだけど、今の季節は日中(にっちゅう)とっても暑い。

なんてったって、真夏だもんね。

そこで、日中を避けて、朝方と夕方移動をする事になる。

で、日中は何をしているかというと、、何もしていない。

正確には『お昼ね』とか、『食事』とかは、してるんだけど、、

まあ、とにかく体を休める事が大切なんである。

 

ところで、あたしが今、何をしているかと言うと、、『お昼ね』でも『食事』

でもなくて『水浴び』。

ちょうど、近くに良い滝壷が有ったのよね。

 

って、そんな事より、早く着替えて行かないと、ガウリイ待ちくたびれたかもね。

早く着替えを済ませて、ガウリイの所にいかなくちゃ、、、

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ねえ、ガウリイ。

 あと、どれくらい?」

 

あたしは、もう何度目か分からない質問を繰り返す。

 

「そーだなあぁ〜、2,3時間ってとこじゃないか?」

 

ガウリイも、もう何度目か分からない『同じ答え』を返す。

 

あたしとガウリイは歩いていた、、

遠くにぼんやりと見えるラルティーグ王国』に向かって。

 

道は簡単だった。

 

だって、一本道だったから。

一本の道が一直線に、はるか遠くに見えるラルティーグの町並みへと続いていた。

道の両脇には、小麦やら何やらの畑が延々続いている。

ものすごーく、単調な景色だ。

 

熱さのせいか、ラルティーグの町並みは陽炎のせいで、

空中に浮かんでるようにも見える。

 

見えるんだけど、、たどり着かないのよね、これが。

『単調』ってのは、時間を長く感じさせるものだって誰かが

言ってたけど、ホントその通りよね。

 

ガマンできずに、あたしはまた同じ質問をする、、

 

「ねえ、ガウリイ。

 あと、どれくらい?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ふうぅ〜、やっと着いたなあ!

 あれ、どうしたんだリナ?」

 

「、、、・・・、、」

 

「え、何だって?

 聞こえないぞ、リナ」

 

「、、、、、、、、、、、、、、、疲れた、、、。

 、、もういや、疲れた、お腹すいた、すぐ寝たい、、お風呂入りたい、、」

 

あたしは心底疲れていた。

大体昔っから、単純作業が苦手だったんだけど、、もういいや。

考えるのも疲れたし。

あたしは気力を振り絞って、言葉を続ける。

 

「ねえ、ガウリイ。

 早いところ、宿屋に行かない?

 あたし、ほんっとうに、疲れたんだけど、、」

 

「そうだなぁ、じゃ、そうするか」

言って、あたしに背を向けてしゃがみこむガウリイ。

何やってんのかしら?

 

「ほら、リナ。

 おんぶしてやるよ」

 

なっ!

「あのねぇ、こんな人の多いところでおんぶなんて、、」

そりゃあ、人の少ないところなら、、って、そうじゃないけど、、。

 

「無理すんなよ。

 疲れてるんだろ?」

 

そりゃあ、ものすごーく、疲れてるのは事実だけど。

さっきから体に力が入らない感じだし、、

それに、な〜んか、気だるいのよねぇ。

あっ、なんか地面が回ってるような気がするし、、

なんだか、自分の身体が自分の身体でないような錯覚に陥る。

あれ、あたし、、、どうしちゃったんだろ?

 

ガウリイの背中が間近に見えた事までは、覚えてるんだけど、、

その後の事は何にも、覚えていない、、、

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

気が付くと、あたしはベッドに横になっていた。

横を見ると、ガウリイが椅子に座って居眠りしてる。

 

「、、ガウリイ、、」

 

いつものようには声が出ないけど、あたしは、ガウリイに声をかける。

相変わらず、少し熱っぽいけど、気分はそんなに悪くない。

 

そう言えば、今何時なんだろ?

もう、夕食終わっちゃったのかな?

だとしたら、食べそこなっちゃったわね。

 

「、ねえ、ガウリイ、、

 ガウリイったら、、、、ねえ、ちょっと、起きてよ!」

 

ようやくガウリイが目を覚ます。

 

「ああ、リナ!気が付いたのか!どうだ、具合は?どっか痛くないか?」

 

ガウリイが立て続けに質問する。

具合?あたし、どっか悪かったのかな?

 

「少し熱っぽいけど、、気分は良いわよ。

 ところでガウリイ、今何時なの?」

 

ガウリイが少し不思議そうな顔をする。

 

「リナ。

 なんにも覚えていないのか?」

 

どういう事?

あたしは目だけで、そう問い掛ける。

 

「おまえ、熱出して寝込んでたんだ、、3日間。

 魔法医をつれてきたんだが、、

 旅の疲れが溜まってたから熱を出したんだって言ってたよ。

 そういえば、随分長いこと旅してるよな俺達」

 

「そう、、、でも、もう元気よ、あたし」

 

完全にとは、いかないけれど、でもまったくの強がりでもない。

ガウリイは、それには答えず言葉を続ける。

 

「なあ、リナ。

 しばらく旅を止めて、田舎に帰ったらどうだ?

 しばらく、ゆっくりしてさ!」

 

「どうしたのガウリイ?

 あたしは、もう大丈夫なのよ。

 それに、『田舎に帰る』って、あなたはどうするのよ?」

 

ガウリイは答えない。

ただ悲しげに、あたしを見ている。

 

『いや、そんなガウリイ見たくない!』

 

あたしの胸に、一気に『感情』が込み上げてくる。

その感情は 怒り? 悲しみ? 、、、あたしには分からない。

でも、言うべき言葉は分かっていた。

 

「いやよ、あたしは!

 あなたは、あたしの保護者なんでしょ?

 だったら、あたしが行くと所についてくる義務があるはずよ!

 あたしは、最初の予定通りフィリアに会いにいくわ!」

 

それから、自分の胸の中でこう続ける。

 

『それに、、、田舎に帰るにしたって、

 あたしはガウリイと一緒に帰りたいのよ、、』

 

ガウリイが少し笑う。

まだ心配そうな顔をしていたけれど、それは、いつものガウリイだった。

 

「ああ、わかってる。

 俺はお前の保護者だからな、、お前の行く所には、何処でもついて行くさ!」

 

「そうよ!

 だから、もう、あんな事言わないで、、お願いだから!」

 

「ああ、もう言わない」

 

ガウリイがあたしの肩を優しく引き寄せる。

あたしは、自然とガウリイの胸の中に飛び込んでいた。

少し驚いたようだけど、ガウリイの逞しい腕があたしをしっかりと抱きとめる。

 

あたしは、ガウリイの顔を見上げて言った。

 

「約束よ?」

 

「ああ、約束する」

 

「じゃあ、これがそのおまじないね」

 

あたしは背伸びをして、静かに唇を重ねた。