夕陽

Mayuka


「ヴァル?もうご飯よ。おうちに入りなさい」

いって、エプロンをはずして扉をくぐる。

もう何年も続いている日常。 

彼女の全て。

あの日から彼女はずぅっと・・・この平和な日常を続けていた。

「・・・・・・・・・・・・・」 

緑の髪の男の子の金の瞳はぼんやりと赤から紺に染まってゆく空を見つめている。 

彼は、夕方になるといつもここで空を見上げていた。 

血のように赤い空。

彼は前世の記憶を重ねてみているのだろうか。

「・・・ほら、ご飯さめちゃうわよ」

フィリアは、その光景を見る度に、そっと金の瞳を覆って抱きしめた。

願わくば、今の彼にはそんな過去を思い出して欲しくない。 

血塗れになって、心を傷つけて・・・その流れた血で生きてきた過去など・・・ 苦しかったと思う。

悲しかったと思う。 

私自身彼に深い傷を負わせた・・・・・・・ だからこそ、今度こそ穏やかな平和の中で幸せになって欲しいのだ―――・・・。

 ・・・夕日が地平線に堕ちた。

「・・・ね、母さん。今日のご飯なぁに?」 

にっこりと笑ってフィリアに抱きつく。

「ふふ、今日はヴァルのだぁいすきな物よ。当ててみなさい」

「えぇ、わかんないよぉ・・・・」 

小さな手と女性のたおやかな手がそっと結ばれて。

美味しそうなにおいの漂ってくる、小さな家の中に入っていった。 

彼が過去を・・・全てを知るのはいつのことだろうか・・・・・・ 

 

おわり