洗濯日和1

一姫 都


 

「今日もいい天気ね」

洗いたての洗濯物を、

干しながら、空を仰ぎ見るフィリア。

今日の空は、雲ひとつない晴天だ。

「姐さーんっっ」

家の中から声がし、そちらを振り返る。

「どうしたんですか、ジラスさん?

あ、お店にお客さんでも?」

「そうじゃぁ無いんですぅっっ

ヴァルガーヴ様がいなくなっちまったんですようっっっっ」

 目に涙を溜めながら、叫ぶジラス。

「…なっなんですって!?」

「あっあねさんっっ落ち着いてっっ」

横から、助け船を出すクラボス。

「さっっさっき、机にこれが置いてあった

んです」

そういって、一枚の紙切れを差し渡す。

「…?

なあに…これ、手紙?」

「そう、みたいなんですけど……なんか、不思議な文字で書いてあって、

おれらには読めないんですよ。」

「…手紙が読めないのに、なんであの子が

どっかいったってわかったのよ。」

「えっ……?

いやあ、だって机の上に置き手紙って言えば、今日びどこの家庭でだって、

家出に決まってますぜ。」

…そんなこと、無いと思うけど……。

フィリアは、そう言いたいのを押さえつつ、

手紙に目を通す。

その姿を、食い入るように見つめる二人。

くすくすくすくす…

フィリアが、急に手で口を押さえるようにして笑い出す。

「なっっなんて書いてあったんですか!?」

「姐さん!?」

二人は、フィリアに詰め寄り問いただす。

しかし、それでもまだ、フィリアは笑い続けるだけで何も答えようとはしない。

「ただいまー」

 『噂をすれば影』とは、良く言ったものだ。

「旦那っっ」

そう、手に買い物袋を抱えながら、今家に帰ってきたのは、

この手紙を書いた張本人のヴァルガーヴである。

「だんなぁぁ…心配しましたぜぇっっ」

そういって、ハンカチを取り出し、涙を拭うクラボス。ジラスはジラスで、

ヴァルの足にしがみつき、号泣し始める。

「…何?

…これ……?」

訳が分からず、一人爆笑したままのフィリアに理由を問うヴァルガーヴ。

必死に、笑いを押さえるフィリア。

「…ところで、ヴァル、プリンは買えたの?」

「あ、…うん」

「…へっ!?

……プリン?」

ジラスとクラボスの声が、見事にハモる。

二人は、お互いの顔を見合わせ、それから、

視線を、ヴァルへと移す。

「…プリンを、買いに行ってたんですか?」

ジラスの声に、首を縦に振るヴァルガーヴ。

「ジラス、クラボス。

これには、こう書いてあったのよ。」

フィリアが、楽しそうに声を上げ、手紙の内容を読み上げる。

「冷蔵庫にあった、みんなのプリンを4つ、

全部食べてしまったので、新しく買いに行ってきます。

って、ね。」

 …しばしの沈黙。

ふいにジラスが立ち上がり、冷蔵庫へと駆け寄る。

「あ゛あ゛あ゛――っっないっっ

おいらのプリンが無くなってるぅっっ。」

「だから、ちゃんと、新しいの買ってきたじゃねーか。」

「あのプリンは、一個300円もして、食べるの楽しみにしてたのにいぃぃぃぃ!!

だいたい、プリンにジラスって、名前まで書いておいたのに、

どうしてたべちゃったんですかぁっ」

「腹が減ってたんだから、しょーがねーだろ。細かいことは、気にすんな。」

「ひどおいぃぃぃぃっっっ」

二人の喧嘩を止めに入るクラボス。

フィリアは、あきらめたようにして、

その光景を見つめ、

ただ、ただ、優しく微笑んでいた…。

そして再び、空を仰ぎ見る。

「本当に…今日はいい洗濯日和ね…」

青い空は、どこまでも澄み渡り、

お日様は、彼らを優しく照らし続けていた…

 

 

                    END