緑の中で君と出会う

一姫 都


 

 自然はその初源から生命の

 

 無限の展開に向けての序曲を奏でている

 

物質としての束縛を少しずつ裁ち切り

 

やがて自らの姿を自由に変えていくのである

 

すべての生命を癒しながら

 

 

「フィリアーッッッ…どこにいるのーーーーーっっ」

 その、大きく広い聖堂内に、清らかで澄み渡った声が響いた。

 その声をかすかに聞き取り、少女は静かに、聖堂を離れるようにして、走り去った。

「お母様、今日だけは見逃してぇぇぇっっ」

叫びながら、少女は少し離れた小さな森へ、全力で駆け出した。

どれくらい走っただろう。

聖堂はいくらか小さくなり、誰の姿も見えなくなった。

自分でも驚く程の汗が出ているのは、ただでさえ歩きにくい砂漠を、全力で

――しかも、走ってしまったからに違いない。

 周りを見渡し、追手が居ない事を確認してから、ふー、とひとつ溜め息を吐いた。

 そして倒れるようにして、ぺたん、と、そこに座り込んだ。

「はぁぁ……」

ここのところ、毎日「魔法の修行」というものをさせられていて、身も心も疲れ果てていた彼女は、人目を忍び、やっとの事でここにやってくることが出来たのだ。

この森は、昔からの彼女の遊び場である。ただ、木が多い茂るばかりの普通の森であったが、彼女にとっては何にも代え難い場所であった。

この砂漠の中では、木に触れる機会など滅多にない。いや…全くないといっても過言ではないだろう。

そんな中、緑に触れる事の出来るこの場所は、とっても大切だった。

何よりも、彼女は木々に触れる事を好んだ。

「やっぱり…安心する……」

近くにあったその木に、頬を当てて、目をつぶる。

木々の音がする……。緑の音が聞こえる……………。

この新緑の中では、何もかもが癒される…そんな気がした。

がさっっっっ

「いってぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ」

「!???」

青々と茂った草木の茂みの中から、草をかき分ける音と共に少年がとびだしてきた。

な…なに?

目を丸くし、驚いているうちにその少年は、自分の今の居場所からさほど遠くない所で仰向けに寝そべった。

「はぁはぁはあ……」

荒く大きく息を吐き、その額からは大粒の汗をかいていた。

…なん…だろう、このこ………。

年の頃でいえば自分より少し年下…であろうか?

綺麗な緑の髪を持ち、体のあちこちへと傷を付けている少年。

「……あの」

「あ?」

静かに、ためらいがちに掛けたその声は、静寂に満ちたこの森の中では十分すぎる程

耳に入れる事が出来た。

「…なに?」

 さも訝しげに、少年はフィリアを凝視し邪険にするように声を吐いた。

「え…あ、いや」

鋭く、そして何処か虚ろげなその瞳に見つめられ、しばし沈黙するフィリア。

そして、視線をゆっくりと少年の腕へと移し、おずおずと呟く。

「血…出てるから………」

見ると酷く生々しい傷跡から、わずかに血が流れていた。とても痛々しげに………。

 言われ、ゆっくりとその場所に目をやる少年。

「……だから?」

「えっっ…あの」

聞き返され、慌てて当たりの茂みへ入って行くフィリア。

がさがさがさがさがさ……

「…変な女……」

「あったっっ」

なにを見つけたのかは解らないが、酷く嬉しそうな様子で、こちらへと戻ってくるフィリア。そして、一つの花を少年へと差し出す。

「……なにこれ?」

それを不思議そうに眺める少年に、柔らかな口調でしゃべりだすフィリア。

「この花には、止血作用があるんです」

嬉しそうに、そういってからその少年の傍らへと座りこみ、傷口へその花を近づける。

すると、ふいに花から淡い光が湧きだし、傷口へと付着する。

そして、傷口へ触れた瞬間それは消えて無くなり、それと共に傷口も完全に塞がっていた。

「……すげー」

 しげしげと、さっきまでそこから血が流れていた部分を見つめ、感心するように呟く少年。

――まるで奇跡…だな。

「この花はね、うちの竜族に伝わる花なの。もう、あんまり数がないんだけど……」

「…竜族……?」

その言葉にふいに身を強張らせる少年。自分の中で、何かが動いた…と、少年は思った。

「そう…、我がゴールド・ドラゴンの…………」

「!?」

目を見開き、眉を潜める少年。

……こいつ、ゴールド・ドラゴン…かっっ!!

言いようのない怒りが、少年の胸をよぎる。

そして、やり場のない憎しみが、ふいに襲ってきた。それは、幼い日の記憶。

永遠に忘れる事の出来ないであろう、忌まわしい思い出……――

「…ど…どうかしました?」

 そんな少年の様子を察してか、心配そうに声を掛けるフィリア。

その時……

「フィリアーーーーーーーっっ」

森の外――しかしさほど離れていない場所から、フィリアを呼ぶ声が聞こえる。

「あっっ、お母様!!???」

酷く慌てた様子で、勢い良く立ち上がり、駆け出すフィリア。

「まてっ………――」

呼び止め、呪文を呟こうとしたその瞬間、少年の頭をさっきの情景がよぎった。

……そして、静かに視線を腕へと移す。

――今はもう、傷跡の痕跡すら残っていないその場所へ………。

しかし、その声は少年が思っていたよりもずっと、大きいものだった。

少女はすぐさま振り向き、優しげな笑顔と共にこう言った。

「あっっ、もう怪我しちゃだめですよっっっっっ」

言って、元気よく森を抜け出すフィリア。その後ろ姿をしげしげと見つめる少年。

「………」

 ――とりあえず…、今は殺さないでおくさ……。傷を直してもらった…借りもあるから、な………。

「おいっっ」

少女が去った後、すぐにその声は自分の頭上に響きわたった。

見上げると、思った通りの人物が空中にいた。その人物の姿を確認し、少し嬉しげに声を出す少年。

「ガーヴ様…」

「ったくっっ…あん位の事で逃げだすんじゃねーっっっ」

言って、静かに自分の隣へと降り立ってくるガーヴ様。そうだ…自分はこの人の修行につきあっていて…そしてその辛さ…もとい惨さに逃げだしたんだ。

「で、どうした?」

「…え、何がですか?」

ふいに言われて、戸惑う少年。その答えにやや強い口調で言い返すガーヴ。

「だから、傷だよ」

「え…」

「傷っっっ、さっき血ぃで出ただろっっっっ」

その言葉に、すこしの暖かみを感じ、顔をほころばせる少年。

「大丈夫です」

――心配してくれたんですね。

 この人らしい、不器用な優しさがとても嬉しかった。

「ならいいんだ」

「………ガーヴ様」

「なんだ?」

「お願いがあるんです」

「言ってみろ」

「あの娘と、俺の今日の記憶を消してください」

言われ、森の先にいる一人の少女に目を移すガーヴ。

そしてその姿を確認したままで、少年へと声を掛ける。

「……どうしてだ?」

「…それは、あの娘を……」

――自分の敵である…ゴールド・ドラゴンだから……。

「殺さなければいけない…から」

――今日の出来事を忘れ、なんのためらいもなく、あの種族を恨むため……

「さっきの記憶を、なくしたいんです」

 

――もう怪我しちゃだめですよっっっっ――

 

「いいだろう」

呟き、軽く指を鳴らすガーヴ。その瞬間、少年の記憶は闇へ飲み込まれるようにし

記憶の海の中へと沈んで行く……。ゆっくりと……、静かに、少年は意識を失い

その、覆い尽くされた緑の上へと身を…ゆだねた。

 

 

 

                 END 

 

 

 

はーーーー…終わった……。

うーん。まー…みなさんお分かりのとーり、少年とはヴァルくんの事ですねー。(最初にヴァルフィリいってるやんっっっっ・笑)と、いうか…なんて解りにくい終わり方…(泣)

一番最初の詩は、横浜のクィーンズスクエアの某所で発見する事ができましゅー(はあと)

全文は素晴らしいので、もし寄る事か゛あったら是非みつけてみてくださいねーっ