ネオ=スノー
「あっ、ゼロス!丁度いい所にいたわ」
獣王の部屋から出た海王ダルフィンは、そこでばったりあったゼロスを捕まえるとそっと耳打ちする。「私はこれから帰るから、うまくやんなさいよ!」
そう、ゼロスに意味深なことを伝えると、ダルフィンはかなり慌てた様子で帰っていった。
「おや?どうなされたのでしょうか??」
パリーーン!!
唐突に硝子が割れる音がした。ゼロスは部屋の中を覗き込むと、不機嫌そうにふかふかの絨毯に横になっている獣王ゼラスをみつけた。
絨毯の敷いていない固い床の上に、赤い液体と硝子の破片が散らばっているのをみつける。
どうやら割れたのはグラス。不機嫌になるとゼラスはグラスを投げ捨てる事がある
ゼロスの姿を確認したゼラスは不適に笑い、異様な妖気を漂わせて手招きをする。
「ゼロス、こちらへ」
妖しく誘惑するように招くゼラスに、まるで導かれるようにゼロスは静かにゼラスの前まで歩み寄り跪き、次の指示を待つ。
「ゼロス、もっとこっちに……」
そういわれ、少しゼラスの近くによって跪く。
ふいに、ゼロスはむなぐらを掴まれ、ぐいっとひっぱられる。
ぼふっ。
勢いで突っ込んだ先が先だけに赤面し&自分がゼラスの上に覆い被さる格好になっているのに非常にまずいと思い、すばやく立ち上がってその横でちょこんっと正座する。
そんなゼロスにくすくすっと笑みを浮かべ起き上がり、ゼラスはその彼の髪に触れる。
「綺麗な髪よねえ」
癖のない艶やかなゼロスの漆黒の髪に指をからまわせて、そして軽く口付ける。
ゼロスは顔を真っ赤にさせて視線を泳がせる。
今日の背ラスは人の姿をかたどっていて、しかも露出度が高い服を着ている。目のやり場に困ったゼロスはただ俯いた。
くすくすと、上機嫌に笑うゼラスの声が耳をくすぐる。
ゆっくりと後ろにまわって、包むように抱きついてきたゼラスに、ゼロスは硬直する。
「獣王……さま?あの……どうなされたのですか?」
様子が普段と違うと感じたゼラスに恐々と尋ねるゼロスに対し、ゼラスはその彼の腰に腕をまわすといずらっぽく微笑む。
「ねえ、ゼロス?あんなこともこんなこともしちゃう、ちょっとした楽しい遊びしない?」
流し目でそう答えたゼラスの指は、ゼロスの頬を唇を軽くなぞる。
「じゅっ…じゅっ…獣王さ…ま。それって……まさ…か」
あんなこと、こんなことを想像したらしいゼロスの言葉はどもってしまう。
「あら?私が相手だと不服というの?ゼロス、よろしくって?」
不服とかの以前にゼロスは上司の命令には嫌とはいえないのである。
ゼロスは言葉なく頷いた。腰に回された腕に力が入る。
何をするのかちょっぴり期待しているらしいゼロス君。
ふうっと視界が反転した。
「バックドロップ!!」
ごんっ!!
無防備だったゼロスはまともに頭を床に叩き付けられた!
衝撃で目の前はクラクラ、星が飛び回る!
『バックドロップ』を知らない方は、父さんかいとこの兄さん辺りに聞けば教えてくれるでしょう。くれぐれもかけられないように!!
「四の字固め!」
すばやくゼロスの足を四の字に固め(みたまんま)、力を込めるゼラス!
「うぐっ!?ぎぶあっぷぅぅぅ!!!!」
苦痛に顔を歪め、ばんばんっと床を叩いて負けをアピールするゼロスだが、ゼラスはそんなことには気にも止めない。
「だめだめ!もっと楽しませてくれないとっ」
「うっ!?獣王様!!やめてくださいぃぃ!!僕が滅んでしまいますよぉぉ!!」
「そん時はそん時よ(はぁと)」
ゼラスはそう微笑みながら、さらに力を入れた。
ゼロスの声のならない悲鳴が、宮殿に響きわたったという。
その状況を遠巻きに見ているダルフィンは、ひとり静かに流れ星に願いを託した。
時は深夜遅く。
ぐたっりと倒れているゼロスの上に腰掛けて、ゆっくりと運動後のお茶を飲むゼラスがいた。
嗚呼……なんて微笑ましい光景。
「微笑ましくないですぅぅぅ(T-T)」
「楽しかったわ(はぁと)ダルフィンったら急に帰るから、せっかくの技をかけられなくって困っていたのよ(はぁと)」
ダルフィンが逃げ帰ったのはごもっともである。ゼラスは手加減というものを知らない。
床に転がっている 『 女子プロレスを極めよ! 』 っという本を、ゼロスは強く呪った。
そして数日後……。
「うむむ……おっ、ゼロスか!
いいところに来た。私はシェーラと買い物に行く約束を思い出したからこれから帰るが、後のことはお前に任せたぞ」
ぽんぽんっとゼロスの肩を叩き、覇王グラウシェラーの姿は闇の中に溶け込んでいった。
「はあ……将軍と買い物ですか?」
「ゼロスよ。食事は買い物前にしたほうがいいと思うか?」
なんの前触れもなく、姿を現さずに覇王の声だけがゼロスの耳に届く。
ゼロスは慣れているのかどこにいるのかわかっているのか、一方をみてしばし考える。
「……僕としては買い物の後の方が、ゆっくり食事できてよろしいかと」
なんかデートの段取りの質問に聞こえるような気もするが、彼なりの答えを伝える。
「そうか、これが最後の参考にならないよう願うぞ」
意味不明な言葉を残し、完全に覇王の気配は消えた。
「はあ……いったいどういう意味なんでしょうか?」
ゼロスは軽く首を傾げ、覇王が出ていった部屋の中をなにげなく覗き……その意味を把握してしまった。
ゼラスが満面の笑みでゼロスを手招きしているだけならまだいい。
その手にはしっかりと 『 あなたも今日からYAWA○Aちゃん〜楽しい柔道技〜 』 という悪魔(天使?)のような本が握られていた。
「ゼロス、よろしくって?」
甘い声で誘うゼラスに逆らうことも出来ずに、ゼロスは覚悟を決めて部屋の中に入っていった。
後は御想像できますよね?
――――合掌