誕生話
私は、今漸く目覚めた様だ。
ゆっくりと両の眼を開けてみる。
蒼い。
最初にそう想った。
暑くも寒くも無い。強いて言うなら、生温い。
次にそう感じた。
狭い。何一つ、身動ぎすら出来ない。
最後にまた、そう感じた。
ここは何処だろうか。此れは何だろうか。
私は何なのだろうか。
そうだ。私は竜だ。古代竜だ。そして、此れは卵で、ここは卵の殻の中だ。
卵は私の身体を包み込んでいる。身動ぎ出来ぬ程に。
下の方が暖かく、上の方は微かに寒い。だから生温いのだろう。
卵は蒼色をしている。そして、私を包む卵の外には、蒼い布が敷かれている。
―そうか。
私は今、自身の考えを一つ一つ反芻した。
破らねば。
この狭っ苦しい殻を破り、外の世界を観なければ。
そうして私は生まれる。生まれなくてはならないのだ。
それこそ、生を授かった私の最初の願い。
私は、生まれ変わったのだからな。
私には、今ここに存在している自分の、生まれ変わる以前の私の記憶が遺されて
いる。
私がこの殻を破った後は、多分そんなことは覚えていないだろう。
ともすれば、言葉を紡ぐ事も、考える事すらも不可能かも知れぬ。
それでも私は生まれる。生まれなくてはならないのだ。
――今ここにいる私は、新しく生まれ変わった私なのだろうか。
それなら、何故前の記憶が遺っている?
では、此れは前の私か?
それも違う。前の私は滅び、そしてこうして生まれ変わったのだ。
どちらも、正解なのかも知れぬし、不正解なのかも知れぬ。
答えは解らぬ。それでいいのかも知れない。
否、もうその様な事は、どうでもいい。
私は私だ。それ以外の何者でもない。
私は生まれる。生まれなくてはならないのだ。
ぴしり。
音がした。
そうだ。これから私は生まれるのだ。生まれなくてはならぬ。
ぴしり。
生まれよう。生まれるのだ。
ぴしり。
生まれなくてはならぬ。
ぴしっ・・・。
ひかりはじ悲に満ち、わたしを優しくいだいてくれる。
ああ、きおくがきえてゆく。
あた がいたい。つめたい。いし がもうろうとする。
それで いのだ。わた うま ること でき のだ ら。
たしは、
うま るの 。う れ くて ない・・・
ぱりんっ。
そして彼は、溢れんばかりの光の中で―――
FIN