里月
今でも……覚えている
人の死ぬ瞬間
愛する者の消える瞬間
それはあこがれ
それは切望
それは苦しみ
初めは、自分が何故泣いているのかわからなかった
何を哀しむ必要がある?
彼女は開放されたというのに
もう彼女を苦しめるものは何も無いというのに
今彼女を包むものは
限りなく
広く
優しく
悲しく
そして深い
……混沌の海
すべてはここから産まれ
ここへと帰る
それは自然なことであり
あらたなる始まりへの一歩でもある
なのに何故こんなに涙が出るのだろう
悲しむことではない
また、その必要も無い
なのに何故流れる涙を止めることが出来ないのだろう
短く儚い命を持つ人間(もの)への哀れみ?
己がいまだ叶えることの出来ない混沌への回帰
その先をこされた羨み 嫉妬?
―――違う
どれも違う
もっと単純で
もっとも強い感情
ただ会いたいと思う気持ち
かなしかった
彼女に二度と会えないという事実が
それだけが無性にかなしかった