匿名希望
「それ・・・・本当なの?」
あたしは固い声でたずねた。
「ああ、何でも黒い髪の毛をツンツンおっ立てた軽鎧を着た戦士のにーちゃんだとかで、魔法も使うとか聞いたな」
ライゼール帝国テルモード・シティ──この街になぜか再びあたしたちは舞い戻って来た。
特に目的があった訳じゃない。いや、あたしはどこかでルークとミリーナの影におびえていたんだろう。
いい思い出がある訳じゃない街だが、その中に彼らはいない。
逃げるつもりはなかった。ただすこし気持ちを整理する時間がほしかった。
けれどその願いは叶えられないのだろう。
最初に聞こえたのはまた下級魔族が現れ始めたという噂。
次に、その魔族を魔道戦士が倒したと言う噂。
最後に、その力を見込まれ雇われた魔道戦士が、対立相手共々雇い主を殺してしまったという噂。
ただの噂であることを願わずにはいられなかった。不謹慎ではあるが別人なら
ばそれだけでもいいと思っていた。
「ほら、そこに人相書がはってあるだろう」
たまたま隣のテーブルに座った話し好きのおっちゃんは、ごていねいにそう言って壁を指さした。
見たくないと思った。それでも見ずにはいられなかった。
その絵は粗悪ながらしっかりとルークの特徴を捕らえていた。
「なあリナ」
「・・・・分かってるわ」
何か言いかけたガウリイに固い声で応じる。
彼は救われなかったのだ。
「止めないと・・・・」
口の中で呟く。
それが出来るかどうかは分からない。そんな権利はないのかも知れない。
それでも今ルークが幸せだとは思えない。
改めて人相書きを見つめる。
ルークは確かにチンピラみたいなやつだけどあんなすさんだ目はしていなかった。
「貴方たち賞金稼ぎなのですか?」
不意に横から女性の声が聞こえた。ガウリイ共々そちらを向く。
最初に目に飛び込んで来たのは銀髪だった。一瞬、ミリーナを連想する。
けれど彼女であるはずはなかった。
そこにいたのはミリーナとは似ても似つかず・・・・とまでは言わないが少なくとも年は彼女より5歳ほど若いであろう、
髪の毛はごく自然に垂らしておりシンプルな町娘の格好をした少女だった。緊張したような面持ちで立っている。
一瞬、頷いたほうが情報を得られるだろうかと考えたが、結局首を横に振る。
「ちょっとした知り合いなのよ──彼とは」
少女の表情が緩む。どうやら間違った選択ではなかったらしい。打算に走りたい気分ではなかったが今は少しでも情報が欲しいのだ。
「あたしはミランと言います。ルークさんは手配書がくる前にここに来ていました」
辺りをはばかる様に少し声を落とし、少女──ミランは言った。あたし達が今
いるのは例のごとく2階が宿になっている食堂である。
「あの人は極悪人の様に言われていますけど、あたしにはそうは思えないんです。哀しい目をした人でした」
恐らくルークはミランの銀髪の向こうにミリーナをみていたんだろう、そう思えた。
「彼はちらっと西へ行くと言っていたんです。その後手配書をもって来た役人に見つかり・・・・彼らを殺し去って行きました」
・・・・ルークはそんなに心がすさんでいるのだろうか。
「それでもあたしには・・・・こんなことを言うのは筋違いかもしれないんですけど・・・・どうか・・・・」
「分かったわ」
半ば泣きそうになっているミランにあたしは言った。
「きっと止めてみせるから」
ミランはこくこくと頷いた。
或いはそれは希望かもしれない。
いまの彼にはそれでも心配してくれる人がいるのだ。
ほんの少しでも穏やかな時間がもてたのだとしたら、それは救いになるかもしれない。
「教えてくれてありがと。ガウリイ、西に向かうわよっ」
「おうっ」
で、外に手掛かりもないので馬鹿のようにほぼ西に一直線に歩いて来たのだか・・・・。
「見たの!?」
「あ、ああ・・・・」
おびえたようにじーさんが答える。
失礼ね、ただ興奮して胸倉つかんだだけじゃないの。
ここは漁村の様である。近海で魚を取って暮らしているのだろう。
駄目元で聞いてみたのだが大当たりだった様である。
「確かにそ、その男はここに来た」
「本当でしょうね」
宿から無断で借りてきた手配書を目の前に突き付けつつあたしはさらにたずねた。
「おーいリナ、脅してどうするんだ?」
「失礼ねっ」
反射的にガウリイにつっこむと、その隙にじーさんは手から逃げ出した。
「た、確かにその男だった。船をかせと言ってきてな」
かなりの距離を取ってから、半ばどなるようにじーさんは言う。
ああ、咳き込んだ。年甲斐もなく無理するから。
「で、貸したのか?」
ガウリイがのほほんとたずねる。
「しょ、しょうがないだろう。血の付いた抜き身の剣をもっているような男に逆らえる若さはない」
そういう問題じゃないでしょーが。
「男はそれにのって海に出てったよ。わしはそれ以上しらんっ」
なおも叫んで咽せるじーさん。
「海?」
ガウリイがなんでそんなことをしたのか分からないとでも言うように呟く。
「そう」
しかしあたしはそれどころじゃなかったし、海に出た理由にも心当たりがあったのでそんなことはかまわなかった。
「で、もちろんあたしたちにも船を貸してくれるわよね?」
「ひぃぃ」
・・・・失礼ねー。美少女の笑顔見て脅えるなんて。
この辺りの船はさほど沖に出る必要がない、というかおそらく出られないので大きくはない。
魚を積んで帰るための場所に食料を積んだとしてもそう長く航海はしていないだろう。入れ違う可能性もある。
それでも行ってみる価値はあると思う。
「行きましょ、ガウリイ」
「あ、おいちょっと待てよ、リナ」
こんなこともあろうかと買いこんできた食料を手近な船に乗せる。・・・・お昼分ぐらいしか乗らないのが欠点と言えば欠点だけど。
「隠居しよう・・・・どこか遠くの山で羊を飼って穏やかな日々を・・・・」
じーさんがなんか言っているようだが当然無視である。
ガウリイが乗ったのを確かめてから魔法を使い、船を沖に出した。
小さいとはいえちゃんと帆もある。一度ちゃんと張ってしまえば何もないよう
な海の上である、風の方向が変わりでもしない限り特にやることは思いつかなか
った。・・・・しょうがないでしょうが、あたしは素人なんだから。
「なあリナ。なんで海なんだ?」
同じく手持ち無沙汰なガウリイが、珍しくさっきのことを覚えていたらしく尋ねてきた。
「あんたは知らないかもしれないけどこの先は魔海と言って赤眼の魔王の腹心の
海王が・・・・って寝るんじゃない!!」
全く、この脳みそニギタケ男・・・・んな高級なもんじゃないか。
「寝てないって。つまりどういう事なんだ?」
結局理解できてなきゃおんなじだって。
「はいはい。つまりルークはミリーナが魔族のせいで・・・・死んだから、その
恨みを手近な魔族の偉い人にぶつけようとしてるんじゃないかって言ってるの」
レッサーデーモンぐらいなら単なる八つ当たりかもしれないが・・・・。
「なあ、それっておかしくないか?」
ガウリイがのほほんと尋ねる。
「何がよ? あの事件の裏を引いていたのが魔族だって事忘れたんじゃないでしょうね」
ルークがどこまで知っているかは知らないが、その手の場所には奇怪な噂が尽
きない。それから推測したと考えればここに向かったとしても矛盾はないはずだ。
「いや、それはまだ忘れてないけど・・・・なあ、あのときってルークそばにいたっけ?」
言われるまで気づかなかった。
単純と言えば単純なミスだ。あたしたちが知っているから当然ルークも知っていると思い込んでしまった。
冷静ならばあたしと同じ様な過程をへて結論にたどり着くこともあるだろう、冷静ならば。
しかし今のルークに冷静さがあるのだろうか? 人を殺し続けているのに。
他人の言葉に耳を貸すとも思えない。恐らくミランの言葉でも・・・・あたしたちでも。
もし、誰かの言葉を聞くとするならば・・・・。
「・・・・ミリーナ・・・・」
・・・・死ぬ前に一体何を話していたんだろうか?
けれどそんなことは・・・・。
否定理由はいくらでも出てきた。それでも頭からその考えが離れなかった。
ただ単にミリーナはあの時点で魔族が裏にいることを気づいただけかもしれない。
なら、なぜルークは魔族じゃなく人間を殺した? 実行したのが彼らだから?
・・・・そうは思えない。
ルークは確かに人間を恨んでいたのだ。
・・・・例えばの話だが、ミランがミリーナの知り合いだと仮定して、死の直
前に何らかの伝言の類を頼んだとしよう。で、ルークは捕まる危険を覚悟してま
で彼女にそれを届けに言った。で、ミランが何かを言って、その結果ルークが魔
海に向かったとしたら・・・・?
・・・・その場合、問題なのは・・・・。
「ご名答」
不意に聞こえた声に、あたしは目を見張った。
「・・・・ミラン・・・・」
いきなりミランが目の前に現れた。舳先に器用に立っているが、予想どおりなら別にたいした事はない。
「魔族なの?」
「そうよ」
ミランからはおとなしげな印象は消え去っていた。あるのは美しいまでの傲慢さ──恐らく高位に位置しているのだろう。
「改めて始めまして。あたしはミラン。海神官よ」
にこりと笑顔を浮かべるがかけらも親しみがもてるはずかない。
「本当はあそこで嘘をついた方がてっとりばやかったんだけど、それは駄目だって海王様に言われてるのよね。何故かしら」
・・・・海王は一体何を・・・・。
「なあ、リナ」
こんな状態なのになんの緊迫感もないような声でガウリイが言う。
「あれ、誰だ?」
「・・・・誰でもいいでしょうがっ。とにかく魔族なのよ、ちょっとは緊張しなさいっ」
全く、いくらガウリイでもこの余裕は何なのよ!?
「けどコイツ、そんなに強く無さそうだし・・・・」
「そ、そんなことないわっ」
・・・・おや?
「・・・・もしかして、図星?」
「違うって言ってるじゃない!!」
・・・・絶対図星ね、これは。何かがあって体力が回復していないのだろうか?
とにかく・・・・。
「ガウリイ」
「おう」
返事よりも早くガウリイはミランに向かう。ミランは精神世界面に消えかけたが、それより早く・・・・。
──ざいんっ。
刃は彼女の体を切り裂いた。
「・・・・うそ」
思わず辺りを見回し警戒するが、いつまで経っても攻撃は来ない。
・・・・ましゃか、本当に?
「だから弱いって言ったじゃないか」
いや、だからっていくら何でも此処まで弱いとは・・・・レッサーデーモンでももう少し歯ごたえと言うものが・・・・かたりにしたって人間の姿してたし・
・・・それって高位魔族って事だったよねぇ? まるで・・・・。
「存在を維持する力ぐらいしか残ってないと言ってあったのに」
・・・・正直振り返りたいとは思わなかった。
記憶違いならどれだけいいだろうと願わずにはいられなかった。
それでもこのまま固まっている訳にも行かない。あたしは恐る恐る聞き覚えのある声の方を振り向いた。
「・・・・ミリーナ・・・・」
こんな状況でなければ生きていてよかったと喜べただろうか? けれどこんな状況でなければ生きているはずがない。
ミリーナは以前と違い柔らかな水色のドレスをその身にまとっていた。その横
にはルークがいた。妙になつかしい光景だと思った。
さっき無理やり頭の中から追い出した例えを思い出す。
──あるいはミリーナも魔族か、それに協力するものではないのだろうか。
しかし、状況はさっきよりも悪い。神官の後にでてくるのは、将軍か・・・・
それとも・・・・。
「おい、どうしたルーク!?」
ガウリイがミリーナにかまわずルークに尋ねる。それも必死な声音で。
改めてルークをみると彼は目の焦点が合っていなかった。
「ミリーナ、ルークに何かあったのか?」
今度はミーリナに尋ねる。「何かしたのか」ではなく「何かあったのか」と言
ったのは単に状況を理解していないのか──あるいは分かっていたか。何せガウ
リイは以前にカンでゼロスが魔族だと見抜いていたのだ。
「何もしてないわ、まだ」
ミリーナが答える。
以前と同じような口調のはずなのに違和感が消えない。
それは先入観のせいなのか、それとも・・・・。
「今は人間に見せかけようとしていないから」
ああ、なるほど・・・・って。
「将軍と神官の力を利用して人間により近くしていたのよ。そのせいで将軍は滅
び、神官は弱くなったわ。いろいろと制約もあったし。けれどその甲斐はあったわ」
いつになく饒舌なミリーナの言葉にあたしは体がガタガタと震えるのを感じた。
「・・・・覇王まで見殺しにして・・・・?」
思わず意味のないことを聞く。
「もともと私は滅ぼすつもりはなかったわ。利用しただけ。・・・・結果的にそ
うなってもどうでもよかったけど」
・・・・以前、レゾ=シャブラニグドゥと対峙したときも。これほどの恐怖は感じなかった。
「・・・・其処までして、何が目的だったのミリーナ・・・・いえ、海王」
ミリーナは否定しなかった。それにいまさらながら悲しんだ。
・・・・全く、信用していた知り合いが全く異質なものに見えるのがこんなに怖いことだったとは。
「目的? ・・・・ルークよ、最初からね」
あっさりとミリーナが言う。
・・・・無論、たらし込もうなどど言うことではないだろう。それならあたしたちに会った当初には既に達していたのだから。
「ルークが絶望してくれればそれでよかったのよ」
確かに今のルークは絶望しているだろう。死んだと思って悲しんだ相手が生きていて、なおかつそれをそう言う風に仕掛けたのが彼女だったのだから。
「最初、見つけた時にもかなり希望を失っていたけど、それではまだ足りなかったわ。だから再び希望を見せたの。希望が大きければ大きいほど絶望は深くなるから」
「・・・・それで、わざわざ部下を犠牲にしてまで海王みずからお出ましってわけ。たった一人の人間の人生を狂わせるのにご苦労な事ね」
あたしの精一杯の嫌みに、ミリーナは少し肩をすくめた。
「しょうがないわ。私は不器用ですから」
・・・・同じ言葉がこれ程意味が違って聞こえるなんて・・・・。
「それに、ただの人間と言う訳ではないわ。──そろそろね」
ミリーナの言葉と共に視線をルークに向ける。
「・・・・何なの?」
分かっていても聞かずにはいられなかった。
「お目覚めですか、赤眼の魔王様」
ルークの目の焦点がいつの間にか会っていた。ミリーナを見る。
「ああ・・・・」
ルークが動いた。何の前触れもなくミリーナを抱き締める。
「愛してるよ、ミリーナ」
何が起こっているのか一瞬分からなかった。
ルークに抱き締められたミリーナの背に生えた黒い剣の様なもの。
驚いたように目を見開くミリーナ。
腕の中で崩れて行くミリーナの体を悲しげに見つめるルーク。
やがてミリーナだった光る砂が全部崩れ落ち──。
「おまえらか・・・・」
初めてこちらに気づいたかの様にルークがこちらを見た。にやりと笑う。
一瞬、すべてが夢だった様な気がした。
ルークは赤眼の魔王なんかじゃなく、さっき倒したのは単にミリーナに化けて
いただけの魔族で、ミリーナはまだどこかで生きていて、これから彼女を探しに
行く途中のような気がした。
しかし、そのほうが願いにも似た夢だと言うことに気づくのにそう時間はかからなかった。
「随分久しぶりな気がするな。この前はやっかいかけて悪かった」
何事もなかったかの様な口調で言うルーク。
「・・・・いいわよ、もうそんなこと」
そう言ったあたしの声は震えていた。
「やっかいついでにもう一つ頼んでいいか──俺を殺してくれ」
「分かった」
・・・・あまりにも自然なガウリイとルークのやり取りに一瞬戸惑ったとしても無理はないだろう。頭が馬鹿になったみたいだ。
「なんでそういう事になるのよ!?」
慌てて叫ぶ。
「なんだよ、ミリーナの話聞いてなかったのか?」
あまりにも変わらない調子で言うルーク。
「聞いてたわよ、聞いてたけど、だけど・・・・」
「・・・・ならば分かっているのだろう?」
いきなり真剣味を増したルークの言葉に、あたしは次の言葉を失った。
「俺が正気を保ってられるのは恐らくそう長くない。その前に・・・・」
「だからってはいそうですかって殺せると思う!? あんただってそんな理由で
死んでいい訳!?」
感情論に走っているのは分かっているがそれでも言葉は止まらなかった。
「よくはねーよ。ただ、俺はそれでもミリーナを愛しているんだ」
「まだ、彼女のいない世界なんか生きてても意味がないと思ってるの!?」
・・・・自分で滅ぼしたのにとは言わなかった。
「それもあるかもな」
ルークは皮肉げに笑った。
「けれどな、それでもミリーナとの思い出までは壊そうとは思わない。確かにあ
のときは我を失ってしまったがな。・・・・ミリーナがどんな思惑で俺のそばに
いたにしろ、一緒にいたとき俺が幸せだった事は間違いない。そのとき世界中が優しく見えたことも」
ルークがどんな表情をしているかは不思議と見えない。ただ声音は限りなく優しかった。
・・・・ミリーナが欠片も恋愛感情を理解していなかったであろうことを悲しいと思った。
「おっと、もう無駄話をしてる時間もないみたいだな。悪いがさくさくと頼むわ」
ふだんと同じ口調なのが余計に辛い。
それでもやらなければ駄目なんだ。
「リナ、俺が・・・・」
ガウリイの言葉にあたしは頭を振った。
「あたしがやりたいの」
──悪夢の王の一片よ
以前同じように赤眼の魔王と対峙した時のことを思い出す。
──世界のいましめ解き放たれし
確かに赤の竜神が魔王のかけらを人間に封じ込めたのはいい方法だったのだろう。
──凍れる黒き虚無の刃よ
あの時魔王を倒したのは結局レゾ自身だった。
──我が力 我が身となりて
そして今ルークが・・・・
──共に滅びの道を歩まん
・・・・だからこそ、今も世界は滅びていない。
──神々の魂すらも打ち砕き──
だからこそ残酷でもある。
「神滅斬!」
虚無の刃はゆっくりとルークに吸い込まれていった。
「ありがとな。しっかしあんたでも泣くんだな・・・・」
「悪かったわねっ」
黒い塵が風に乗ってさらさらと流れる。
・・・・それでもルークは最期までルークだった。
「これでよし」
あたしはかつてルークだった塵を穴を埋め終わった。
「・・・・此処ならいいよね」
それは単に残されたものの感傷かもしれない。隣の墓は恐らく空だろう。
「・・・・結局、あの二人って並んでるのが一番自然なんだよなぁ、なんだいっ
ても」
ガウリイがつぶやく。
「やっぱりそうだよね」
あたしは立ち上がると、一歩下がってルークとミリーナの墓標を眺めた。
「本当のところは分かりませんが──彼は幸せだと私は思いますよ」
あたしはその言葉の主の方を向いた。
「勝手なお願いですけど、二人の墓よろしくお願いしますね、ケレス大神官」
「リナさんたちはこれから・・・・?」
ケレスの問いにあたしはにっこり笑った。
「もちろん旅を続けます」
あるいはここで二人の事を考え、感傷に浸りながら暮らすのも間違ってはないかもしれない。
しかし、人間はいずれは前に進まなければならないのだ。
だだ嘆き悲しむ事だけが死を悼む方法じゃない。あたしはそう思う。
「もう二度と会えないかもしれませんけど、お元気で」
そうケレスに言ってからあたしはガウリイの方を振り返った。
「行くわよ、ガウリイ」
「おう」