匿名希望
ずべしゃぁぁぁっ!!
今のはあたしが派手にすっころんだ音だが、気にしないように。
大体道の真ん中にこんなものがあるのが悪・・・・。
「あにゃ?」
躓いたそれを拾い上げしげしげと眺める。
この質感といい、重さといい、これは間違いなくオリハルコン。しかも見事な細工・・・・神像だろうか?
つまり値打ちもの(はぁと)。
ふつーに考えればこんなものが道に落ちているはずはないのだが・・・・以前に似たようなものを池に沈めた奴もいたことだし・・・・。
これは単なる落とし物に違いない。落とし物といえば持ち主が見つかることは少ない。
つまりこれはあたしのものだ。おったからおったから。
「リナさん」
げっ。
「あ、アメリア・・・・」
うわ、ネコババなんてこの子が許すはずかない。隠さねば・・・・。
「その像は・・・・?」
ああ、さようならあたしのお宝ちゃん。
「・・・・リナさん、それ・・・・」
「な、なにもネコババしようと思った訳じゃ・・・・」
おや? ネコババを見つけたにしてはアメリアの顔色が悪い。
「・・・・リナさん、それもしかして拾ったんですか・・・・? 拾ったんですね!?」
「・・・・これ、何かいわく付き?」
アメリアは巫女だし、そういうことに詳しくてもおかしくない。
「その像を拾った人は三日以内に魔族に攫われるという、言い伝えのある像なんですよ!?」
・・・・時々思うんだけど、そういういわくって誰が伝えてるんだろ。拾った人に付きまとって観察でもしてるのか?
「魔族って例えば・・・・」
あたしはいつもの通り唐突に現れた黒の法衣に手を伸ばす。
「これ?」
「あああ、これもそうですけど、いわれでは違う魔族ですっ」
「あの、これって・・・・」
錯乱しているアメリアに指さされ、ゼロスが困惑げにつぶやく。
「何なんです?」
「聞いてたんでしょ?」
「ええ、おもしろいそうだとおもいまして」
と、いつもの笑顔でいわれては本当はどう思っているのかが分からない。
「で、あんたあたしを攫い来たわけ?」
「まさか、別件ですよ。それにどうせ攫うなら、期日ギリギリまでまって、その間の疑惑や不安の感情を美味しく頂いてからにしますよ」
「ま、あんたらしいわね」
いつもの事だし。
「で、アメリア。その攫いに来る魔族ってどんな奴?」
とりあえず話をもとに戻す。
「え、あ、はい、名前しか聞いてませんけど・・・・ゼロガディスというそうです」
「・・・・何、その偽ブランド品みたいな名前」
ゼロスとゼルガディスを足して割ったような・・・・。
「なんか、『ひゃひゃひゃひゃ』とか下品に笑いながら、卑劣な作戦を立てるんですけど、その計画が穴だらけでリナさん辺りの怒りに触れてあっさりやられそうな名前ですねぇ」
ゼロス、それどういう名前だよ。
「ゼロスさん、『あっさりやられそうな名前』って・・・・そういうオトモダチは・・・・」
アメリアが細かいところを突っ込む。
「友達にはなりたくありませんねー」
まあ、確かに。
「それはとにかくそういう名前の魔族は僕の知ってる限りいませんよ」
「これで決定ね」
『はい?』
あたしの言葉に二人ともが聞き返す。
「ゼロスってなんか他人の事をよく覚えてて重箱の隅をつつきそうな性格だから・・・・」
「あの、リナさん、僕をなんだと・・・・」
「そのゼロスが覚えてないって事は来るとしてもせいぜい下っ端。それならあたしたちの正義の心があれば何とかなるわ」
「ええ、そうですよねっ」
アメリアは正義という言葉にあっさり目がくらんだ様だ。
このまま売りにいってもいいんだけど、いわく付きと言うことで買い叩かれでもしたら困る。
と、いうことは3日以上しても魔族は来なかった、あるいは来た魔族を倒したということになれば価値が下がる心配もない。
「では、僕はこれで・・・・」
「待ちなさい」
考えたら法衣をつかんだままだったが、それが役に立った。
「あんただって『ゼロガディス』なんて名前の魔族どんな奴か知りたいわよね?」
「いえ、別に・・・・」
「知りたいわよねぇぇぇ!?」
あたしはとびきりの笑顔をゼロスに向けた。
「・・・・・・・・知りたいです」
「じゃ、付き合いなさい」
うーん、かわいいって罪ね。
「分かりました」
ゼロスが苦笑した。
「リナぁ、俺寝ていいか?」
「駄目よ、交替の時間はまだ先でしょ」
しかし、ガウリイではないが、ここ二日何も起きていないのでは気も抜けるというものである。
・・・・期限が一週間とかだったら別の意味で切れてるぞ、あたし。
「何でしたら寝ててもいいですよ」
「そうかゼロス、悪いな」
いったその後即座に寝息を立て始める。全く、緊張感のない奴。
あたしは像に目をやった。
とりあえず手入れはしたし・・・・これなら最初の予想よりも高く売れるかもしんない。
知れないが・・・・。
「で、ゼロス聞きたいんだけど」
ごく軽い口調で尋ねる。
「何です?」
「『別件』って何?」
そのときの沈黙はそりゃあ見事なものだった。
「それは・・・・」
「秘密ってのは無しだからね」
先回りして言ってやる。
「引き留めといてなんだけど、あんたが本当に『ゼロガディス』なんて魔族を見たがってるとはおもっちゃいないわよ」
たとえそうだとしても、見るだけならここにじっとしている必要もない訳であり・・・・。
「よっぽどの暇人ってのなら話は別だけど、あんたの神出鬼没さって、驚かそうって意図以外に、実は意外と忙しいんじゃないかと思ってたんだけど」
なのにこの2日姿を消そうともしない。寝ている間の事も聞いたから確かだ。
「あたしを攫いに来たのかって答えは別件だったけど、像が目的かとは聞かなかったわね?」
誰がいわくを言い始めたのだろうと思ったが、故意に流したという可能性もある。
「例えばこの像が何か特殊で直接見なければ見つからない場合、下手に誰かのところに止まりでもしたら見つかりにくくなるからね」
コレクターと言う奴はやたら自慢したがる奴と、大切にしまい込む奴のどちらかに大抵分類される。
前者なら見つけやすいが、後者だと下手をすれば何百年と出て来なくなる。魔族にとってはたいした事ない年月だろうが、それを延々繰り返させれては少しは困るのだろう。
「全く、リナさんにはかないませんね」
ゼロスがひょいっと肩をすくめる。
「平和的に、リナさんが売りに行った後、その店から買い取ろうと思ったんですけどねぇ」
「何だったら、ここであんたに売ってあげてもいいわよ?」
「350万でですか?」
いたずらっぽくゼロスが返す。
「話によってはタダでもいいわ。ただし・・・・」
「状況如何では350億でも売らないと?」
一瞬、ゼロスの目が薄く開く。
「そういうことね」
万一物騒な事にでもなれば、さすがのあたしも目覚めが悪い。・・・・350億は魅力だけど。
「僕が嘘を吐くとは?」
「その辺は信用してるわ。ごまかされないようには気をつけるけど」
緊張した空気が流れる。
「・・・・分かりました」
言ってゼロスはニコ目に戻った。・・・・正直、生きた心地がしなかった。
「別にこれがあったからって世界をどうこう出来るって訳じゃないですよ。・・・・ただ、誰にでも思い出の品というのはあるものです」
もっとも、僕の思い出って訳じゃないんですけどね、とゼロスは微笑する。
「誰の思い出かはなんとなく怖いから聞かないけど・・・・それがどうしてこういう噂になったわけ?」
「それが・・・・うっかり無くしてパニックされて・・・・人間型がとれない魔族にまで探させまして・・・・」
「・・・・よく、この程度の噂ですんだわね」
全くですねぇ、とゼロスはお気楽に笑った。
「多分もともとはこの像を持ってると魔族がとりにくるとかいう物だったんでしょうけど・・・・そのときは噂集める余裕なんてありませんでしたし」
・・・・いーのか、魔族がそんなんで。まあ、平和でいいけど。
「もっかい聞くけど、これ渡したからって世界が滅んだり、人を殺したり、街を壊したり、ええと・・・・」
「そんなに念を押さなくても探知が出来ないってだけで普通の像ですよ」
苦笑しながら言ってるけど・・・・魔族でも探知出来ないってそれだけで充分凄いんじゃ・・・・。
けどま、いっか。
「わかったわ」
「はい?」
アメリアが目を丸くする。
「本当か、リナ?」
「何、ゼルまで疑うわけ? あの像は魔族がもってっちゃったって言ってるでしょ」
もちろん、大嘘である。・・・・いや、半分は嘘じゃないけど。
「仮に、魔族が持っていったのは本当だとしてもだな、おまえさんがなんの抵抗もせずにお宝を奪われたという点が納得いかないのだが・・・・」
「どーゆー意味よ?」
そりゃ部屋は綺麗なまんまだけどさ。
「ゼロス、おまえ見張ってなかったのか?」
「いやー、うっかり眠ってしまいましてね・・・・」
はっはっはっ、とゼロスが笑う。・・・・ガウリイしか信じないぞ、そんな大嘘。
・・・・考えたらゼロスも嘘つくんだわ。以前にも『しげみの中で気を失ってましたから』とか言ってたし、魔族ってのを隠してた時だとはいえ。
うーん、ちょっとまずかったかな、こりは。
「あ、ちょっとそこの人」
と、トートツに声をかけて来たのは宿のおばちゃんだった。
「あんた確かなんか像持ってたわよね?」
「持ってましたけど・・・・今はありませんよ」
「ああ、そうなのかい。なんか高笑いしている露出度の高いねーちゃんがそれは自分のだって主張して歩いているらしいけど・・・・」
前言撤回。ゼロス、もってってくれてありがとう。
そんなねーちゃんの相手をしてては今度は別の噂が立つ可能性大である。
・・・・ま、問題は残っている気もするが・・・・。
「で、ゼロ、ゼロ・・・・」
「ゼロズディスです、ガウリイさん」
「そうそう、そのゼロガディスってどういう奴だったんだ?」
・・・・知らないわよ、そんなこと。